兵庫県中東部に位置する、神戸大学ともかかわりの深い地、丹波篠山。ここで丹波篠山フィールドステーションの管理者を務める農学研究科特命准教授の清水夏樹先生にお話を伺いました。
後編では、清水先生ご自身の研究活動に迫っていきます。また、清水先生が今年5月に丹波篠山市内にオープンしたシェアハウス、「篠山スタディステイ」についてもお話を聞きました。
清水先生の研究について
――丹波篠山に来るまでの清水先生は、どんなことをしていらっしゃいましたか?
研究者になって最初の30代は、農林水産省の研究機関で、農林水産施策の研究をしていました。40代は京都大学で学生のインターンシップの世話などをする学生教育プログラムや大学での研究成果を地域に還元するプロジェクトに関わっていました。そして、50代という研究者最後の10年は研究成果の地域還元、「実践」に身を置こうと考えていました。ちょうどそのとき、丹波篠山フィールドステーション駐在のポストが空いていることを知りました。丹波篠山は大都市から遠すぎず、農村で古くからの歴史があり、見どころが多い、私にとってちょうどいい、パラダイスのような場所でした。そんな場所に住めるならと、丹波篠山に行くことを決めました。
――丹波篠山では、どのような研究をしていますか?
丹波篠山の課題は、地域をもっと活性化させようという、地域の方々の「やる気スイッチ」が入っておらず、現状で満足していることです。丹波篠山は、食べ物がおいしく、景色がよく、蛍が飛んだり鳥が鳴いたりと自然豊かで、大阪・神戸・京都といった都市からもアクセスがいい、「ほどほどに幸せ」な場所なので、将来への危機感を感じにくい場所です。しかし、高齢化が進み、地域の危機は確実に迫っています。そんな中で、市民の方々のやる気スイッチを押すために、「地域づくり人材育成に向けた地域分析」、「アフターコロナにおける農村集落の維持と活性化のための地域診断」といった調査研究をしています。具体的には、統計とアンケート、地域の方々への聞き取りで網羅的に地域を調べて回り、どこにやる気スイッチがあるのか、どれぐらいの人がやる気スイッチを持っているのかを調査しています。そして、地域の方のやる気が少しでも見えたら、より具体的なアドバイスを提案します。「やる気スイッチ」を探し、押すことで地域に貢献できたらと思っています。
他には、私は農村計画を専門分野としているので、丹波篠山市の地域づくりの中心施策である「ワクワク農村未来プラン」にも関わっています。これは、行政(丹波篠山市)が何か大きな建物を建てて地域を活性化させるのではなく、地元の人々が自分の周りのものを使って小さな活性化を目指すという施策です。私は丹波篠山で研究者、市役所職員、コンサルタントの3役をやっているようなものです。
――丹波篠山では、ご自身のこれまでの研究を「実践」したいとおっしゃていましたが、具体的にはどのような「実践」の仕方をお考えですか?
今、地域の資源を活用して地域を盛り上げたいというニーズがあります。その盛り上げ方は、自分も模索していますし、自分の知識が足りない部分は、他の研究者の人たちに助けてもらっています。ここでは、例として、「灰屋(はんや)プロジェクト」と「お堂の管理プロジェクト」を紹介したいと思います。
――「灰屋プロジェクト」とは、どんなプロジェクトですか?
灰屋は、「はんや」と読み、丹波篠山の農業を支えた伝統的な装置です。
具体的には、地域で刈り取った芝や雑草を土と一緒に蒸し焼きにした有機肥料を作るための建物です。この灰屋で地元の草木を肥料に変え、畑に投入してきたからこそ、丹波篠山の黒豆生産は続いてきたと言われています。かつては一家に一基以上ありましたが、化学肥料の導入により灰屋で肥料を作る必要がなくなると、灰屋が使われなくなり、倉庫にされたり、維持管理の問題や土地改良事業の影響で解体されたりしてきました。その結果、今では灰屋は300基ほどしか残っていません。
このプロジェクトでは、灰屋を見直すことをきっかけに地域を元気にできないか考えています。例えば、地域の方々が主体となって、灰屋で作る肥料が肥料として効果を持つのか、農学部の土壌学の先生が講演する地域勉強会を開催しました。また、丹波篠山市の内外の人に灰屋を知ってもらいたいと思い、春に灰屋ウォークラリーを行い、そこで撮った写真の展覧会を11月に開催する予定です。さらには、崩れかけていた灰屋を地域の方に貸していただき、それを再建するというワークショップもやっています。これらの活動を支援するのが私の仕事です。灰屋の壁塗りを通じて伝統的な左官の技術を学べるということで建築の学生などに人気です。
私自身の研究としては、灰屋の現代ならではの価値とは何か、環境的価値、農業技術的価値、文化財的価値、観光的価値といった様々な「○○的価値」という観点からみると、どのような灰屋の守り方があるか、定義づけできたらと思っています。
――「お堂の管理プロジェクト」とは、どんなプロジェクトですか?
丹波篠山市内には、多くの地域にお堂やお地蔵さんがありますが、地域のお年寄りだけでは管理が難しいので、各地域の自治会では当番制で管理しています。しかし、若い人の中にはお堂の管理方法がわからないため、管理当番が嫌で自治会から抜ける人もいます。自治会から若い人が抜けると、地域のコミュニティ機能の維持が難しくなります。
そこで、管理当番が嫌にならないような解決策として、地域の方にお堂の管理方法を聞き取る調査を行い、その内容を若い人にも読みやすい簡潔なお堂の管理マニュアルとしてまとめるという取り組みをしました。市内のある地域で行ったところ、若い方にも年配の方にも好評でした。他の地域でもお堂の管理に関して同様の課題を抱えています。今後は高校生や大学生にもプロジェクトに加わってもらい、お堂の管理マニュアル作りを丹波篠山市全体に広げていきたいと思います。
「篠山スタディステイ」について
――どんな経緯でシェアハウスを作ることになったのでしょうか?
私自身がフィールドワーカーで、学生時代から足しげく地域に通って地域の方に話を聞いていましたが、フィールドワークはお金がかかりました。お金が足りないため、地元の人に泊めてもらうことが多かったのですが、家の人に気を遣うため、ストレスになります。しかし、フィールドワークでは地域に長く滞在しないとわからないこともあります。そこで、フィールドワークを気軽にできるように、そしてできるだけ長く滞在できるようにシェアハウスを作ろうと考え、昨年1年間家を探していました。良い物件を貸してもらうことができ、抜けた床を修復したり、トイレ、お風呂、台所を改装したりして、3つの個室と共用のリビング、キッチン、水回りを備えたシェアハウスをオープンしました。個室での滞在なので周りに気を遣わずに滞在ができ、またシェアハウスという一種の「家」なので、家の中で交流することもできます。また、コロナ禍では、フィールドワークで宿泊する際の雑魚寝が禁止されていますが、このシェアハウスは個室に滞在するので、コロナ禍でも大丈夫です。
――シェアハウス滞在は、どんな魅力がありますか?
丹波篠山の朝と夜が体験できることです。この前来た学生たちは、空の星の多さに驚いていました。周囲は街灯がなく真っ暗なため、星がその分きれいに見えます。秋に入り、鹿の鳴き声も聞こえます。朝になると、8時前から草刈り機の音が響くなど、農家さんの1日の生活パターンを肌で体感できます。また、学生が来ると近所の方が喜んで野菜やおかずを持ってきてくれます。
なお、コロナ禍ということもあり、長期滞在をする人がまだいません。フィールドに長期滞在しないとわからないことはあらゆる分野にあるので、長期滞在にも使ってもらいたいです。長く滞在していると地元の人にも顔を覚えてもらえ、調査しやすくなります。あわよくば、丹波篠山に定住する人が出たらいいなと思います。
最後に、神戸大学の学生へメッセージをお願いします!
新型コロナウイルスの影響でオンライン授業が多かったと思いますが、大学生は受け身ではない学びができる最初のチャンスだと思います。学校で座って話を聞くだけでなく、「みんなもっとフィールドに出よう」と本当に伝えたいです。フィールドで学ぶことは面白く、これからの人生を豊かにしてくれます。
“フィールドに出よ!”
篠山スタディステイ
利用したい場合の連絡は,清水夏樹(natsuki@silver.kobe-u.ac.jp)までメールで
滞在時期・期間などは要相談。研究・調査,地域連携活動の利用者を優先。
【宿泊料】学生,研究生等は無料(代わりに共同利用部分の掃除やリノベーションの手
伝いあり)
【部屋】3部屋(6畳2室,8畳1室),各室に寝具,リネン,タオル有(洗面用具,パジャマは持参)
【食事】自炊(お米以外の食材は持参)
【Wi-Fi 】全室に有
【アクセス】丹波篠山フィールドステーション(丹波篠山市中心部,JR篠山口駅からバスで20分)から3.5km(自転車で20分,レンタル自転車あり)
※周辺にバス等の公共交通なし
※駅からの送迎なし
※自家用車やバイクでの来訪可能(駐車場有、ただし安全に気をつけて)
関連リンク
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記事を担当した学生
- 文学部 1年 岡島 智宏