神戸大学学生広報チーム・活動報告

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【Professor~神大の流儀~Vol.2】経営学部・宮尾学准教授 (前編)

教授インタビュー第2弾は、経営学部の宮尾学先生です。学部でゼミを持っておられる先生としては、今回が初の取材となりました。前編・後編に分けてお送りします。


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――—本日はよろしくお願いいたします。宮尾先生はイノベーションに挑戦する組織に立ちはだかる壁や、新商品を開発するプロセスについて研究されているとうかがったのですが、具体的に教えていただいてもよろしいでしょうか。

イノベーションは世の中にとっても、もちろん組織にとっても新しいことですよね。製品であったりサービスであったり、用途だけでもいろいろなものがイノベーションに含まれていて、それを起こすためには、今までやっていたのと違う取り組みをする必要があります。もちろん、画期的なイノベーションであればあるほど今までの取り組みと違う度合いが大きいんですね。

それで、どんな組織でも、今までと同じことをそのままやっていきたいわけなんですけど、その一方で、何か新しいことに取り組まないと、環境が変わった時にうまくいかなくなる。その時に、今までにやってきたことと新しいことは、うまく相容れないことが多いんですね。その相容れない状態をどのように解決しようかというのが、イノベーションをマネジメントする上での大きな課題。そしてそこが僕の大きな意味での研究内容です。

――—なるほど。そのテーマについてはいつ頃から関心を持たれるようになったのですか。

もともと僕は企業にいたんですけど、そこで研究開発やマーケティング、商品開発とかの仕事をしていたんですね。研究開発をしていたときには、営業やマーケティングの部署から「何か新しいことはできないの」とよく言われていました。それでいろいろとネタを探して実験とかをして、「こんな商品はどうですか」と提案すると、「そんなのだめだ」と言われるわけです。「確かに新しいとは思うけれど、売れるとは思わない」とか、「それをどうやってお客さんに伝えるんだ」とかね。それなら今までと同じような商品を開発していれば良いんですけど、そうではなくて何か新しいものを作っていかないとダメで。そういうジレンマをなんとかしたいと思って神戸大学MBAに入ったのがきっかけです。

――—お客さんに受け入れられるものを作っていればいいという空気や雰囲気の中で、新しいものを作っていかなければならない理由は何でしょうか。

製品には「ライフサイクル」というものがあります。最初は「導入期」と言って、市場に珍しいものが出てくる。それが「成長期」では徐々に普及して、みんなが良いなと思うものにはわーっと人が飛びついていって。そしてある程度普及すると「成熟期」となり、最後は「衰退期」に入っていくというサイクルがあると言われています。そのライフサイクルの成長期や成熟期でビジネスをしている間は良いんですが、いずれ衰退期に入るわけですよね。その時に次の新しいものを仕込んでおかないと、衰退期に入ったと同時に会社の売り上げも落ちてしまうんです。

――—新しいものを進んで取り入れようとする人とそうでない人の間にある壁は、どうすれば取り払うことができるのでしょうか。

壁を乗り越えるためにはいくつか方法があるんですけど、まず、組織の仕組みとして取り組むためには、新しいことに取り組むチームとそうでないチームとをちゃんと分けることが提唱されています。でないと、例えば、今までと同じことをやる人たちには決められたことをきちんとやるとか効率を上げることが求められるわけで、そういう点で評価されないといけないんですね。けれど、新しいことに取り組もうとしている人たちは、今までとは違うやり方を試すとかちゃんと実験をして学習をするとか、そういう点を評価してもらわないといけない。チームの仕事の仕方や上司との関係も違うし、フレキシビリティも評価のされ方もそれぞれで違うので、その辺はちゃんと分けた方がいい。

そしてもう一つは、プロジェクトリーダーを指名して取り組むという方法です。新しいことに取り組む仕組みが会社の中でちゃんとできていれば良いんだけど、仕組みがない場合は、プロジェクトリーダーが中心になって、周りの人を巻き込んで新しいことをやっていかないといけないんですね。そのプロジェクトリーダーが自分のプロジェクトを会社に向けてきちんと発信して周囲の人を説得して。もちろん、そういう風に仕事をする人が生まれてくるような会社の雰囲気を作るのも必要です。プロジェクトリーダーより上層部の人で「チャンピオン」と呼ばれている、プロジェクトリーダーを社内で守る役割の人とかね。上層部の人たちがちゃんとサポートすることも大事だったりするんですよ。

――—そうなんですね。宮尾先生がこれまでに見てこられたイノベーションから生まれたもので、これはすごいと感じた事例というのはありますか。

2006年に三菱電機が「本炭釜」という炊飯器を作ったんですね。当時一番高かった炊飯器でも6万円とか、せいぜい7万円とかで売られていた時に、11万円という値段をつけたんです。実際の売価はちょっと値下げされて10万円くらいで売られるような、そういうものが出たんですよ。ものすごいニュースにもなったし、そのあと同じような値段の高い炊飯器が世の中にいっぱい出てきて。当時の炊飯器の平均単価って1万4千円くらいだったのが、ぐっと上がるきっかけになりました。

その開発秘話というか、炊飯器って内釜があるじゃないですか。たいていは金属で作られている内釜を、「本炭釜」は炭で作ったんです。ただ問題があって、金属と違って炭なので、落としたりすると欠ける可能性がある。だからそれについて品質保証をしないといけないという問題です。もちろんそれもきちんとやったんだけども、僕が驚いたのは、解釈を変えて売り出したところなんです。要は、割れてしまうかもしれないという点をネガティブに捉えるのではなく、この釜は職人の手作りの(あ、実際手作りなんやけど。ちゃんと削らないといけないからね)、とても大事な良い釜なので大切に扱ってくださいという注意書きを1枚入れたんですね。そうすると消費者の間でも、ネガティブな「割れるかもしれない」ということが「大事なものだからちゃんと扱わなきゃいけない」というように、ものの解釈、とらえ方が変わったんですね。

あと、その内釜って作るのに6ヶ月くらいかかるんですよ。通常そんなものは工業製品としてはあり得なくって。6ヶ月先の炊飯器の需要なんてどうやって読むねんって話ですよ。それで会社の上層部の人もすごく反対をして、本当に売り出してもいいのか、ということになったんですね。ただ6ヶ月前に発注しているものだから、発売直前にそのようなことを言われてもどないすんねんって感じじゃないですか。そこで最終的には、プレスリリースをやめようという話になったんです。会社って、商品を発売する前に「発売しますよ」っていう報道発表をするんですけど、それをやめたんです。新商品を出すのに普通はあり得ないですよね。結局、万が一売れすぎて生産が追いつかないと困るので、そーっと出そうということで落ち着いたんだそうです。でも、そーっと出したにもかかわらず売れた(笑)。どういうことかというと、そーっと出しますと言って上層部を説得した人が、実はいくつか別の仕掛けをマスコミ向けにしていたみたいで。それで、新聞が「なんと10万円を超える炊飯器が出た」みたいな記事を出したっていう。そんなストーリーがあったので、本炭釜の事例は面白いと感じましたね。


ここまで、宮尾先生の研究内容についてお聞きしました。後編は、宮尾先生が現在受け持っておられるゼミや宮尾先生自身の学生時代、私生活などについてお聞きします。

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