神戸大学学生広報チーム・活動報告

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【取材報告】丹波篠山フィールドステーション管理者・清水夏樹先生インタビュー(前編)

兵庫県中東部に位置する歴史と自然が豊かな地、丹波篠山。ここは、神戸大学とも深いかかわりを持つ地域です。学生が授業や研究、課外活動で訪れたり、地域おこし協力隊として居住したり、または研究者がこの地で研究を行ったり――。 このような丹波篠山での様々な活動の拠点となるのが、丹波篠山市の中心部に位置する、丹波篠山フィールドステーションです。今回は、ここの管理者を務め、ご自身も研究者として丹波篠山で活動する、農学研究科特命准教授の清水夏樹先生にお話を伺いました。

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丹波篠山フィールドステーションについて

――丹波篠山フィールドステーションはどのような場所ですか?

 丹波篠山フィールドステーションは部署名ではなく、場所の名前です。かつては「神戸大学丹波篠山フィールドステーション」と名乗っていましたが、いまは「神戸大学」という名称を外しています。なぜなら、神戸大学だけでなくすべての大学の学生や研究者、または丹波篠山市の市民の方に利用してもらえる、ニュートラルな場所にしたいからです。
そして、丹波篠山フィールドステーションは主に3つの機能を果たしています。
それは、

丹波篠山で研究や農業支援活動、ボランティアをしたい人たちにとっての拠点
②地域おこし協力隊の拠点
③シェアオフィス

の3つです。

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フィールドステーション外観
――「①丹波篠山で研究や農業支援活動、ボランティアをしたい人たちにとっての拠点」として、どのような業務を行っていますか?

 丹波篠山で様々な活動をしたい方々から、フィールドの場所や関係者の連絡先、研究やボランティア活動に関することなど、様々な相談を受けます。我々は丹波篠山に関する情報をたくさん持っていますので、フィールドの紹介など様々な支援をします。
 具体例として、丹波篠山市内に福住という地域があります。ここは国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、移住者が多く、建築、文化財、まちづくりなどの様々な分野の学生や研究者に人気があります。しかし、この地域に関わる調査が多くなると、住民の方々は何度もインタビューやアンケートに答えることになり、学術研究が住民の方々にとって煩わしくなるおそれがあります。そのようなことが起こらないよう、フィールドステーションが調整役をしています。以前行われた研究や論文を紹介するアーカイブ機能も重要視しています。

――「②地域おこし協力隊の拠点」として、どのような業務を行っていますか?また、地域おこし協力隊の方々は、どんな活動をしていらっしゃいますか?

 地域おこし協力隊とは、自治体の嘱託を受けて、地域資源を活用した様々なビジネスを行う人たちです。彼らは地域になじむまでは地域において孤独で、またビジネスの情報もあまり持っていません。そんな彼らが心折れずに活躍できるよう、定期的にミーティングや相談会を設け、協力隊員同士で交流、情報交換ができるようにしています。
 地域おこし協力隊は主に2種類あり、一つが「起業支援型」です。彼らは地域資源を活用した様々な事業で起業しています。例えば、地元の野草や薬草を使ったアロマトリートメントサロンと宿のセット運営、閉校した小学校の校舎を使った宿泊施設の運営などです。そして、もう一つの種類が、「半学半域型」、これは「半分学校、半分地域」といったような意味で、大学生が丹波篠山に移住し、丹波篠山から大学に通いつつ、週3日地域おこし協力隊として活動し、地域活性化に取り組むという制度です。
 地域おこし協力隊になった方々は、協力隊卒業後もほとんどが丹波篠山に残っています。

――「③シェアオフィス」とありましたが、シェアオフィスはどんな場所ですか?

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 市役所に近い立地ということもあり、市役所の職員の方が市民との面会やちょっとしたミーティングで使われたり、丹波篠山市に起業に来られた方が情報や交流を求めていらっしゃったりします。全館にWi-Fiを装備し、各部屋にzoom用のモニター、カメラ、マイクを完備することで、オンラインミーティングにも対応しています。
 丹波篠山市はネットカフェなどがなく、あまりインターネット環境がよくありません。書類のコピーや調べものをできる、ネットカフェの代わりになるような場所があったらいいなというニーズにも応えています。

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篠山の風景

神戸大学丹波篠山の関わりについて

――神戸大学生と丹波篠山の人々はどんな関係性でつながっているのでしょうか?

 大学の学生と地域の方々が最初に接するのが農学部の「実践農学入門」という授業です。
 学生が丹波篠山の農家に「弟子入り」し、農業を学びます。そこで地域の方々と学生は仲良くなり、地域の方々の中には、学生をまるで「地元の中のうちの子」のように受け入れてくれる方もいます。実践農学入門の授業をきっかけに、「にしき恋」や「AGLOC」のようなサークル活動で丹波篠山に通い続ける学生や、地域おこし協力隊として活動し始める学生もいます。

――神戸大学丹波篠山の人々がかかわりあうことによって、学生側にはどんなメリットが生まれていますか?

 農業や環境は、机上で学ぶだけでは限界があり、現場で本物を知って学ぶことが重要です。丹波篠山がその「現場」となり、市民の方々が現場の生の声、生の課題を提供してくれることで、学生が現場で本物を学ぶことができています。
 また、学生が丹波篠山の課題に対して解決策を提案することがあります。中にはまだ薄っぺらい提案も多いのですが、地域の方々はそれを聞いてくれて、「ここがまだおかしい」「ここがまだ考えが足りないんじゃないか」とアドバイスしてくれます。

――神戸大学丹波篠山の人々がかかわりあうことによって、丹波篠山ではどんなメリットが生まれていますか?

 丹波篠山の人々の中には、学生が定期的に来るだけで元気が出ると言ってくれる方がいます。また、丹波篠山市には鳥獣害、外来植物といった様々な課題があります。神戸大学は、科学的な専門知識を用いて丹波篠山市の様々な課題の解決を目指す「地域創造研究」という形で、それぞれの課題に専門知識や解決策を提供しています。

――コロナ禍において、丹波篠山ではどのような変化が起きましたか?

 実践農学入門が昨年は開講できず、今年は開講できたものの、これまでとは異なるプログラムで行いました。例年は、学生や農家の方々全員で田植えを行い、親しくなった後に小さな班に分かれていましたが、今年度は最初から小さな班に分かれてそれぞれの農家さんのもとへ行きました。この状況では学生がネットワークを作りにくいことが心配です。
 また、大学が地域の方々に専門知識を提供する場になっている市民向けセミナーも開催できず、市民との交流の機会が減っています。そのかわりに、私が地域の方々のもとをまわって、「困りごとはありませんか?」、「解決できることがあればお手伝いしましょうか」と聞いてまわる、「御用聞き」のようなことをしています。今でも市民の方々がフィールドステーションを訪ねてくれたり、「家に来て話を聞いてほしい」と連絡してくれたりしているので、大学と丹波篠山の人々の絆は薄くなっていないと信じています。

 

後編はこちら

 

関連リンク

sasayamalab.jp

 

記事を担当した学生

  • 文学部 1年 岡島 智宏