今年の春から深江丸に代わり、神戸大学の新練習船として運用が始まった海神丸。この新しい船のことを多くの人に知ってもらうべく、広報活動が次々と行われているが、最新の活動として「海神丸イルミネーション」が行われているのをご存知だろうか。クリスマスシーズンに合わせて始まったこの試みを調査すべく、深江キャンパスへ取材に向かった。お話を伺ったのは、神戸大学海事科学研究科の藤本昌志教授(海神丸船長)、尾崎高司講師(海神丸機関長)、猪野杏樹助教である。
――海神丸のイルミネーションはどのような経緯で始まったのですか?
藤本教授:やろうと言い出したのは私でした。
猪野助教:海神丸は新しくできたばかりで、知っている人もそんなにいません。皆さんにもっと知ってもらうために何をするかを考えた時に思い浮かんだのが、海技教育機構(練習帆船日本丸,海王丸を含む5隻の練習船を運航し実習訓練を行う国土交通省所管の独立行政法人)の練習船で、白いイルミネーションなどで飾り付けがされていたりするんです。イルミネーションは、練習船が入港することでその港に来てくれる方や、練習船が好きだから見に来てくださるという方へのちょっとしたおもてなしです。海神丸のイルミネーションも同じ理由で、例えば、向かいの人工島にある東灘高校の生徒さんの通学路になっている橋から海神丸を見ることができるので、見て楽しんでほしいという気持ちで行っています。高校生ということで、これから大学受験ですし、海神丸を見てもらって受験の選択肢に入れてもらえたら良いんじゃないかというのも、理由の一つです。せっかく12月、クリスマスということで、ツリーをイメージした緑の電飾にして、高校生や地域の方に「こういう所があるんだ」と知ってもらえたらいいなと思っています。
尾崎講師:船をデコレーションすることは、まちの方々へのリスペクトでもあるんです。満船飾と言って、祝日や大学のイベントの日は、旗を上げて賑やかにしています。「おめでとうございます」という敬意を表すならわしで、電飾もその一つとなっています。前に勤めていた海技教育機構でも、港に着いたら皆さんに目で楽しんでもらうためにイルミネーションを行い、話題作りをしていました。また、海神丸では急にイルミネーションしよう・・と始まった訳ではなく、実は以前からこの船が建造されて(深江キャンパスに)戻ってきた時には旗を上げたり、こどもの日には鯉のぼりを揚げたりしていました。地域で鯉のぼりを揚げてお祝いするのと同じで、この船自身も子供(学生)の成長を願うということでお祝いしていました。そういう感じで、クリスマスシーズンを皆さんに電飾でちょっと楽しんでもらえたらと思います。
――現在はどのようなイルミネーションとなっていますか?
藤本教授:キャンパス内は安全のため立ち入り禁止ですが、21時まで点灯させています。(イルミネーションが始まった12月1日から取材日までの)2週間で、緑の電飾の線を足したり、星の飾り付けを大きくしたりしました。
尾崎講師:あまりギラギラしないように、上品なイルミネーションを目指しました。東灘高校方面へ向かう深江大橋から見るのが綺麗ですが、甲南女子大学あたりの山から見るのも良いかなと思っています。
また、同じく海神丸の広報の一環で学内・学外向けとして12月3日、4日に行われた、学生後援会主催の船内見学会についてもお話を伺った。
藤本教授:学内向けはそれなりに人が集まりましたし、学生向けの回でも他の研究科や学部の方が15名くらい来てくれました。保護者向けの回は、ホームページに案内を載せて3時間くらいで埋まってしまい、日程を一日増やしました。来年も学生後援会があれば開催します。
尾崎講師:他の学部で、海神丸のことを知らない方が知るきっかけになったらいいなと思います。「“海の神戸大学”がありますよ」という具合ですね。
新しい実習船や学部について知ってもらうべく行われている広報活動の中で、クリスマスシーズンに合わせて始まった海神丸のイルミネーション。たくさんの工夫が詰め込まれたイルミネーションは、きっと多くの人々の目を楽しませてくれるはずだ。イルミネーションは12月25日まで、日没~21時。
「学生を第一に考えた」こだわりの詰まった練習船、建造はコロナ禍真っ只中。
今年の春から運用を開始した海神丸。その建造が始まったのは、2021年2月、まさにコロナ禍の真っ只中だった。そんな中でも実習が安全に行えるよう、海神丸には様々な工夫が施されている。今回、船内の案内と共に、猪野助教にお話を伺った。
猪野助教:船内の換気システムと船内の人が触れる箇所すべての抗菌コーティングはキャプテン(藤本教授)のこだわりです。どうしても実習になると人が密集するのは避けられない場合があります。そのため対策をする必要があるということで、船内の換気システム、船内全面の抗菌コーティング、各部屋一台の空気清浄機、机を仕切るアクリルボードなどを準備しました。聞いた話によると、換気システムについては、もともとはそういう設計ではなかったみたいですが、新型コロナウイルス感染症が流行り出し、急遽対策をした方がいいとなり、こういう仕様となったそうです。
また、船橋(主に船を操縦する場所)の窓ガラスにはブラインドのような船専用のシェードが窓際に付いている。
猪野助教:紫外線は白内障や緑内障のきっかけになるため目に良くないんですが、船に乗っていると、上からだけでなく海面や船体からも太陽光が反射して届くんです。そのため、陸上で生活するよりも海にいる方が、体に取り入れる紫外線の量は多くなります。航海士だとサングラスを持っている人も多いですが、性能の良いサングラスを持っている学生は少ないので、船に工夫をしています。練習船という特性上、主軸には学生がいるため、「快適に」というところは海神丸の重要なコンセプトの一つで、普通の商船にはない設備もあります。
このように、学生を中心に置き、充実した練習船である海神丸は、すでに学生の学びを支えている。海洋政策科学部の中でも海技ライセンスコース航海学領域に所属する記者は、実習ですでに海神丸への乗船経験があり、その快適さを実感している。このような設備がキャンパス内に備わっていることは、私たちの誇りである。一部の学生しかそのことを知らないのはもったいないと心から感じているので、この記事を含め、広報活動を通して海神丸のことがもっと知られてほしいと思っている。さらに猪野助教は次のように語っていた。
猪野助教:航海士・機関士って、なろうとしても何をしたらいいか分からない職業だと思うんです。ですが航海士・機関士を目指してこの学部で学ぶ学生は、座学はもちろん、海神丸や(深江キャンパス内にある)操船シミュレータ、機関シミュレータでより実践的に学ぶことができ、座学とは違った学びもできるんです。
船や海について実践的に学ぶ環境が最大限に整えられた深江キャンパス。きっと他のキャンパスとは違った魅力が見つかるはずだ。ぜひこの記事を目に留めたみなさんも、一度は深江キャンパスを訪れてみてはいかがだろうか。
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記事担当:佐伯美喜子(海洋政策科学部2年)