神戸大学学生広報チーム・活動報告

メンバーが取材した神戸大学の情報をお届けします!

【取材報告】~専門にとらわれない思考を~「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」

 近年、「データサイエンス」という言葉が注目を集めています。神戸大学でも、本年度から全学向けに、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」(旧:数理・データサイエンス標準カリキュラム)が始まりました。このプログラムについて、数理・データサイエンスセンター副センター長の首藤先生に取材しました。

――そもそもデータサイエンスとはなんですか?

 昔から統計や人工知能といった、データを活用する研究分野はありましたが、近年は一般の方もデータを簡単にとることができる状況になり、データにまつわる学問を体系的に学ぶ必要が出てきました。それらの学問をまとめてデータサイエンスと呼んでいます。

―――ということは、以前はデータの数が少なかったのでしょうか?

 データ自体の数というよりも、データを記憶できる量が飛躍的に多くなりました。クラウド(※インターネット)上にデータをアップロードすることも多くなっていますよね。それで、一般の方や、企業も多くのデータを貯められるようになったので、それらを活用できないかと考えられており、近年はデータサイエンスに対する期待が強くなっていると思います。

―――「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」は全学向けとのことですが、いわゆる文系の方や数学が苦手な方は、「データサイエンス」には、抵抗を持ちやすいのではないかと思います。特に文系がデータサイエンスを学ぶことにはどんな意義があるのでしょうか?

 案外、データを「使う」ということに関しては、文系の方でも興味のある人は非常に多いです。こういうことを自動的にできたらいいなとか、データに基づいてきちんと説明できたらいいなとか、これは文系理系に関わらず、普段過ごしていれば思うことで、なおかつ必要とされる能力だと思います。

 たとえば企業などで、お客様に納得してもらう提案をするためには、このようなデータとデータ解析の結果があるから、このような決定をさせてくださいと説明をしていくことが必要です。こういった、説得力がある説明をするためのデータ活用は、文系理系問わず広く求められる能力だと考えています。

―――プログラムの昨年度からの変更点と内容について教えてください。

 詳しいカリキュラムは資料を照らし合わせてもらえたらと思います。

http://www.cmds.kobe-u.ac.jp/literacy_level_program/index.html

 ただ、考え方として全学に展開した点と、1年生で開講しているデータサイエンス基礎学が卒業要件科目の単位に算入できるという点が大きな変更点です。

 また、昨年まで開講されていた「データサイエンス・標準カリキュラムコース」とは異なり、「AI」(※人工知能)というワードを入れていますが、これは、最近注目をあびるようになった「AI」というキーワードをいれて、その部分をさらに充実させていく意思をあらわしています。文部科学省でもAI教育は推進していかなければならないといわれており、「Society5.0」(※サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society))という言葉もでてきています。

 ちなみに、AI教育推進の背景には、人口の減少も関わっています。今後人口が減っていくのは確定している事実としてあり、人手が足りなくなるという社会的情勢に対して、AIを使って支えていく動きがフィーチャーされているところです。

―――カリキュラムの中には、AIだけでなく、プログラミングもありますよね。プログラミングと言われると、なじみがない文系の方も多いのではないかと思いますが、文系の方でもステップアップしながら学習できるようなカリキュラムにはなっているのでしょうか?

 もちろんです。まず、1年生が履修するデータサイエンス基礎学の最初の3回では、文系の方が興味をもつようなデータサイエンスやAIの利活用の話を必ず取り入れるようにしています。例えば、マーケティングリサーチ会社では広告の効果測定を行うことがありますが、そのような会社では購買者層をグループ分けし、ある広告を出したときに販売促進につながっているかどうかを検証するなどしています。特に経済・経営の学生は興味があることだと思うので、そういう部分は意識して授業内容に組み込んでいます。

 また、プログラミングに関しては、最初は文字の羅列でわからなくて、抵抗もあると思います。それを解消するために、データサイエンス基礎学では、エクセルを使って自分で操作をすると、その通りにプログラムを書いてくれるマクロの記録機能のデモンストレーションをしています。その機能を使うと、プログラムを書く能力がなくても自動的に作ることができるため、プログラミング自体になじみを持ってもらえている感触もあります。

 このような導入部分はゆっくり時間をとって説明するようにしています。そのあとのカリキュラムでデータサイエンス概論があり、そこでも動画でインプット、基礎的な知識をつけて、Zoomで演習を付加するという形式で授業を提供しています。

 人それぞれ相性はあるので、万人受けするとはいいませんが、比較的神戸大学は様々な学部の学生に対して手厚くカバーしていると思います。

―――近年では、文系出身のSE(システムエンジニア)も増えていると聞きます。進路の幅もひろがりそうですね。

 私個人としては、数理データサイエンス、AIをバリバリ使うような職業に全員就く必要はないと思っています。しかし、各々専門性を持ったうえで、ほかにも引き出し(武器・道具)を持っていてほしいという考えで授業を提供しています。例えばこういうものを売りたい・提案したいといったときに、引き出しが多いのと少ないのとでは大きくパフォーマンスが変わります。神戸大学の学生は優秀なので、そこのエッセンスを教育すると工夫して使ってくれると思っています。そのトリガーになれたらいいなと考えています。

―――今後の展望を教えてください。

 教員のひとりとして、学生には自分の専門性を活かしつつ、一見自分の専門性に関係ないものも勉強しようとする姿勢を学んでほしいと思っています。そのなかで、データサイエンスやAIがそれに対応するのであれば、受講してほしいです。

 また、それらをすべて得意になる必要はないですが、こういう技術がある、解決方法や分析方法があるということを知って世の中に出てほしいと思います。自分ができなかったとしても、活用できそうな武器や道具があるということを知っていれば、それができる人や一緒に働いている人、同じコミュニティで過ごしている人の大切さに気付いて、良い関係・良い仕事につながると思います。

 このプログラムを通して、数理・データサイエンス・AIの三つの軸では、どういうことができるかということを示し、社会で使ってもらえる人を輩出することを目指しています。

―――今の時代、専門分野だけでなく、ほかの分野にも興味を持っておくことが大事ということですね。

 大学に入るまでの間は、テストの点数をより高くとるということが求められていたと思うのですが、会社や研究者間においては、人の個性は、その人が持っているスキルの組み合わせということが多いです。例えば気を配れる、こんな専門性がある、さらにほかにも引き出しがある、というように、その組み合わせで尊敬されたり、頼りにされたりすることが多いと思います。

 少なくとも、一つの能力だけが求められるわけではないので、大事にして勉強しようというものを複数持っていると、いつのまにか自分のコミュニティの中で唯一の存在になれるのではないかと思います。

―――最後に一言お願いします。

 数学や情報科学が武器になる分野ということは否定しませんが、それらが苦手な方も、とりあえず一回かじってみてほしいです。試食という感じでデータサイエンス基礎学から受けていただければ、そこでの自分に合わないという感覚も、面白そうと思う感覚も、それらは両方とも収穫になると思います。

 どの科目にも限らず、いろいろな学問に触れて、そのなかで「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」が魅力的だとおもったら続けてもらいたいし、また、勉強してみようかなと思ってもらえるように努力するので、ぜひ受講してもらえたらと思います。

 

(参考)

神戸大学数理・データサイエンスセンター「神戸大学 数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」

http://www.cmds.kobe-u.ac.jp/literacy_level_program/index.html

内閣府、「Society5.0」

https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

 

 

〇取材を担当した学生のコメント

  神戸大学は総合大学であることも手伝って、こういった分野横断型カリキュラムがいくつか提供されています。大学には学部を選んで入学しているので、専門科目にばかり気を取られがちですが、学生のうちに、専門科目以外のことも知識として持っておくために、特に先行き不透明な今の時代、広い視野を持つという意味でも、こういったカリキュラムを受講することは有意義なことではないかと思いました。

(法2・寺岡)