神戸大学学生広報チーム・活動報告

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【取材報告】~留学を考えている人・留学生へ~国際教育総合センターのサミナさんに取材しました(後編)

 神戸大学への留学生を対象とした企画の運営や支援を担っているCIE(神戸大学国際教育総合センター)のサミナさんに取材をしました。サミナさんは、オーストラリアから神戸大学に留学していた経験もあります。後編ではサミナさん自身のことについて聞いてみました。

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――留学したのはなぜですか?また、神戸大学を留学先に選んだのはなぜですか?

 当時オーストラリアで専攻していた分野が医療法と哲学で、ずっと「生と死」について考えていて、ちょっと疲れてしまっていたんです。そこで、息抜きとして日本語の授業を受けることにしたのですが、その成績が評価されて、西オーストラリア州姉妹都市である兵庫県にある神戸大学へ、日研生(日本文化研究留学生)として推薦されました。医療法と哲学から離れたい気持ちもあり、日研生として神戸大学に留学することを決めました。

 実は、当時は神戸のことは全然わかっていませんでした。ただ小学生の時に、にのみや先生という、阪神・淡路大震災での経験から積極的に活動されていた方にお会いしていたので、「神戸は熱い人がいる街」という印象はありました。

――留学中に困ったことはありましたか?

 私は日本とオーストラリアのハーフなので、祖母と母の日本語での会話を聞く機会も多く、発音には自信があったのですが、読み書きが苦手でした。私が留学した時の日研生には、日本の恋愛事情に興味を持つアメリカの方、漢字がすごく好きなロシアの方、平和論のプレゼンを受けて興味を持って来たスリランカの方、中国語を勉強していたのに大学の手違いでスケジュール上日本語中級のクラスにいれられ、猛勉強したポーランドの方がいました。それで、周りの人たちに比べて自分が楽をしてきたと感じ、焦りました。それが最初は少し辛かったですね。

――留学時代に楽しかったことは何ですか?

 はじめは焦りもあって苦しかったのですが、少し経ったら楽しくなりました。日本の古典や演劇など、専門ではない分野の勉強が楽しかったです。それまで大学はしんどいところでしかなかったのですが、大学が楽しいところに変わりました。大学の外でも、旅行に行ったり、日本の治安がいいこともあってヒッチハイクで日本中を回ったりできて楽しかったです。f:id:KobeU_stu_PRT:20220314152512j:plain

――サミナさんは、いろいろなお仕事を経験されていますが、キャリアについて聞かせてください。

 キャリアに関しては正直何も考えておらず、その都度、楽しそうだと思うことをやってきました。

 まずは大学卒業後、日本にまた行きたいという気持ちがあったので、修士を日本で勉強したいと思いました。それで、留学が終わる前から神戸大の先生に相談していたのですが、当時勉強したかったのが第二言語習得についてであったにもかかわらず、私にはその基礎知識が全くないことに気が付きました。そこで、CELTAという英語教師になる資格をとって、学部習得と同じレベルの知識を学ぼうと思いました。その時に通っていた学校のほうから、うちの先生にならないかと言われて、一年くらいはオーストラリアで英語の先生をしていました。その学校は、先生たちも若く、授業のほかにも先生の得意なことを紹介する時間もあって、楽しく働いていました。

www.cambridgeenglish.org

 その後、偶然パースの領事館に行ってJET (日本交流教育)プログラムの存在を知り、長野の飯山市役所で国際交流員として働くことになりました。CELTAを取っているときに、都市計画の修士も取ろうとしていて、ちょうど飯山市が新幹線の開業を行ってから3ヶ月後程度だったので、勉強していたことを身近で見られておもしろかったです。また、新幹線によって海外のお客さんもくるだろうということで、姉妹校の協定や、観光施設の資料作成、海外の方への飯山の紹介や、地元の方と海外の方との触れ合いの機会を提供する仕事をしていました。

 それから、今度は東京に行きたいと思うようになって、サーブコープというオーストラリアの会社で、秘書として働いていました。そこでは、通訳や名刺交換などを楽しくやっていたのですが、長野にいたときにつくったプロモーションビデオをYouTubeで見た方からお声がけいただいて、三菱地所に入社することになりました。そこでは、海外のMICEイベントのプロモーションの仕事をしていました。

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 結婚して神戸に来た後、はじめは家で翻訳の仕事をしていたのですが、つまらないなと感じていました。そんな中ちょうど留学時代に会ったロシア人の方も結婚して神戸にいることがわかりました。それでいっしょに神戸大学の食堂やCIEに行くと、お世話になっていた事務の方がいたんです。いろいろお話しして、雑務などお手伝いできることはないか、と言ったら、ちょうど2020年の冬プロが始まるところで、遠足の同行や講演などをさせてもらうことになりました。その結果、学生目線での好評をいただいて、翌年の冬プロにもお声がけいただけました。

 去年の夏はオリンピックで仕事をしていました。オリンピックでは、海外のメディアがたくさん来ます。そこで、日本の電力では対応できない海外のメディア用機器の電力として、会場にバックアップ用の発電機を持ってきて設置するにあたって、現地の従業員の方、海外からの電気技師、他の業者さんのコーディネートをする役割を果たしました。私には一切工業関係の知識はありませんでしたが、日本語と英語が話せるのと、時間の管理が上手いということでお仕事をいただくことができました。そのあとは、再びCIEで働くことになりました。

 やはり、私のキャリアは、常に楽しいことを追っているものです。でも、意外とそれが通用する世の中だと思います。

――留学生がキャリア形成(就職)する際の障害は何だと思いますか?また、それを支援するような企画にはどのようなものがありますか?

 履歴書の書き方やビジネスマナー、日本の企業がどんな構成をしているのか、あとは社会保険の仕組みなど基礎的な知識がまず大事だと思います。そしてそのような知識を得るための講座をCIEから提供しています。

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CIEがある神戸大学百年記念館

 しかし、ビジネスマナーやメールの書き方ももちろん大切ですが、日本と海外の価値観の違いを知ることも大切だと思います。たとえば、私の履歴書もそうなのですが、海外では基本的に一つの就職先に一生勤めることがないので、転職の多い履歴書を見て、日本では「飽きっぽい」とみられてしまうかもしれません。また、仕事に対しても、日本では勤務時間外に業務の電話があったり、残業が当たり前だったりしますが、海外では基本的にそういうことはないです。特にオーストラリアは、ワークライフバランスを大事にする国なのもあって、日本で働いて、周りについていこうとして身体を壊してしまう人も多いように思います。そういった認識の違いの理解を、何かの機会に発信していきたいです。誰もがそうなのですが、特に海外で働くときは、自分の生い立ち、在住する社会、職場独特の3つの文化の間に生きることになるので、どの価値観にも根を張らず、柔軟でいつつ、曖昧な空間で自分の中で価値観の軸を守ることが一番大切だと思います。

 あとは、就職活動をする際のアドバイスですが、面接を受けるときには、面接官の人にちょっとでもやりたいという気持ちが伝わったり、コネクションができたなって思わせたりして、ガードを下げてもらえたら手ごたえありだと思っています。

 また、日本人も外国人も関係なく、仕事が趣味になってしまうことも多いので、仕事以外の趣味の時間も大事にしてほしいです。

――これからどんなことをしていきたいと思っていますか。

 これからも通訳リエゾン(Liaison)の役割をやっていきたいと思っています。通訳リエゾンというのは、最近の概念で、言葉を聞いたとおりに直接翻訳するのではなくて、人の間を取り持つ役としての通訳です。たとえば、誰かが「鼻が高いですね」と言ったのを「your nose is tall」といっても意図が伝わらないので、ワンクッション置いて、「これは褒め言葉で、鼻が高くて素敵ですね」と言うように、補足するなどしてニュアンスを伝えて、関係を取り持つという仕事をやっていきたいと思っています。

 それが主要なやりたいことではあるのですが、もし機会があればCIEで学生の相談に乗りたいと思っています。特に留学生は、留学自体が楽しくなって周りがみえなくなってしまいがちなので、視野を広げる手助けをしたいです。

 また、話は変わりますが、日本には支援や制度がたくさんあるのに、プロモーションが下手で知られていないということも多いです。姉妹校ではない大学の情報や、大学を通さない支援や制度などについては特に知られていないことも多いと思います。プロモーションには大学間も、より広い社会でも連携が大事になるので、留学生・外国人の目線で、そういった情報の発信、プロモーションもできればと思っています。

――最後に、大学生や留学生に一言お願いします。

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 生きている中、どうせ泣いたり笑ったりする回数は同じくらいだと思うので、留学して、違う環境で泣いたり笑ったりしてみてもいいのではないかなと思います。もちろん留学することのしんどさもあると思うのですが、家にいても「私何をしているのだろう」というときもあるから、それなら違う環境で、ちょっと大胆に泣いてもいいのではないかと思います。

 少しでも興味や機会があるのであれば、思いもよらない形で人生が変わると思うので、留学してみることをおすすめします。私も留学をしてなければ違う方向に行っていたと思いますし、夫にも会えていなかったですし。 

 もちろん留学がすべてということでもないですが、日常をちょっと抜けるというのは大事だと思います。たとえば、近所でもちょっと違うところにいったり、通勤も違うルート通ったりしたら、いろんな刺激を受けることがありますよね。環境が変わるだけで、やってみたことのないことをやってみることで、自分はこれが好きなのだと気づくこともあるので、留学をして、視点を変えてみるというのはいいと思います。

 

〇取材を担当した学生のコメント

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 サミナさんの取材で一番感じたのは「異文化で生きていくことの難しさ」です。留学によって、いろいろな文化や価値観を知ることができ、その後の人生もより豊かなものになると思います。しかし、一方で、海外で、特に就職する際には、その国の文化の違いに苦しむことも多いと思います。「郷に入っては郷に従え」(余談:これも直訳すると意味不明なので通訳リエゾンの必要性を感じる言葉ですね。)という言葉もあります。しかし、このグローバル化の時代、学校にとどまらず、仕事でも外国の方とかかわる機会も多いでしょう。そこで、難しいことではありますが、「お互いの文化を知り、尊重し、歩み寄ること」が重要ではないかと思いました。(寺岡)