神戸大学学生広報チーム・活動報告

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「ありがとう深江丸」イベント開催記念!~船長インタビュー②~

海事科学研究科附属練習船「深江丸」は、学部学生の実習を始め、授業、実験、セミナー、調査・研究、さらには研究会や海事の啓発活動、海事関連企業や団体の研修、近隣の他大学学生への教育提供など、様々な目的や場面でこれまで活躍してきました。そんな深江丸ですが、今年いっぱいで就航以来34年の長い歴史に幕を下ろします。そこで、深江丸のこれまでの功績を称えるために9月24日には「ありがとう深江丸」イベントが開催されます。イベントに先駆けて深江丸の魅力や思い出をゆかりのある方々に伺いました。

★船長インタビュー②

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――深江丸での研究について教えてください。

 船底防汚塗料の実船による評価試験をこの十数年、通年で行っています。船が水の上を航走するとき、造波抵抗や渦抵抗、摩擦抵抗や風圧抵抗などが船体に作用し、これらが船の推進力と釣り合った速力で船は水上を航走します。荒天下の船体動揺時にはこれらの抵抗が大きく変動し速力が激減します。超大型で低速の原油タンカー、石炭や鉄鉱石、小麦や大豆などを運ぶ”ばら積み船”など、でっぷりとして没水面積が大きい船は船体表面と水との摩擦による抵抗が全抵抗の60~70%を占めます。この抵抗を少しでも小さくすることは船の省エネルギー化と同時に温室効果ガスの排出削減につながります。近時、船型やエンジンは極限まで最適化されており、残すところは海洋付着生物の船底付着を阻止しつつ低摩擦性能を発揮できる画期的な船底塗料の開発であり、海運界はその登場を強く待ち望んでいます。太古、人類が水に浮く道具を発明して以来、未だ決定的な解決策がなく、チャレンジする価値のある研究分野であり、これまで民間企業と連携して様々な試行を繰り返しながら取り組んできました。また、航海の都度、PM2.5を含む海洋大気観測も自動で行っています。

――他にはどんな研究が?

 新型コロナウイルスによる活動制限がかかる以前は、夏と春の年2回、7日~10日間の日程で研究専用の航海を計画して学内外から研究を公募し、深江丸を活用した、深江丸でなければできない様々な調査研究活動を支援し展開してきました。

 2006年には関西空港の2期工事完了直前に空港島の全灯火を深夜から早朝にかけて初めて点灯し、大阪湾の海上交通への影響調査を実施しました。また、2012年には明石海峡大橋の2P主塔(本州側)の塗膜の剥離実態を赤外線カメラにより効率よく検出するための実験を本学の工学研究科の依頼で支援しています。通常ではまずあり得ませんが、この実験では許可を得て、潮流の状況を見ながら主塔護岸へ50メートルまで接近を繰り返しました。

 近年では、人工知能を活用した内航船の操船支援システムの開発・検証実験の他、i-Shippingプロジェクトの一環で、船の主機関や推進器から発生する騒音の海生哺乳類への影響調査に続き、船尾船底部に計測機器を船の内外から装着して、推進器周辺の船尾船底部における流場計測を夜間に実施しています。これは世界初の画期的な実験です。

 ユニークな実験として、緊急時に船内から船外に脱出する際、船が正常に浮いている状態と、事故等で大きく傾いているときに、船の構造をよく知らない一般者(被験者は非乗船系の学生50人)が船内から外の暴露甲板へ避難する際に、傾きの度合いによって行動や流線にどのような違いが生じるかという検証実験を、深江丸の船体を右舷側へ最大20度傾斜させて行いました。これは客船の構造設計において重要な指標になり、これも世界初の試みです。このとき、船の異常な傾斜に海上保安庁の巡視艇が確認に来たほどです。

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右舷20度傾斜時の脱出評価実験(2018年1月)

 液体水素の海上搬送とその様態計測も、動揺する船の上で計測するのはこちらも世界初ですが記憶に新しいところです。さらに、鹿児島県薩摩半島の南で屋久島の北側の海底に位置する”鬼界カルデラ”とその周辺海域の探査活動も年2回、10日から15日の日程で実施しています。こちらは、練習船深江丸による海洋底探査活動 -第1時~第6時探査航海の撮要- と題して、大学院海事科学研究科紀要第17号(2020年8月)で報告しています。ときにはなかなかイメージできない実験や調査が打診されることがありますが、実船の現場からの提案も交えて、船と乗船者の安全を考慮し、状況の許す限り可能な範囲で協力し支援してきました。

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液体水素の海上搬送・様態観測実験
――外部との関わりは?

 高校生以上の一般を対象にした複数日にわたる公開講座、ときには半日から宿泊を伴う小中高生向けの体験プログラムの他、近年では文科省主導の教育関係共同利用の一環で近隣大学の授業やゼミ等を対象にした半日から複数日にわたる教育プログラムの場を提供しています。そのほかに海事関連企業や団体の研修なども受け入れています。複数日にわたる航海では、協調性や仲間意識、人への思いやり、譲り合う気持ち、集団の中に溶け込み融和し交流する楽しさ、リーダーシップや責任感、自己完結性の発現など、船内宿泊とともに、制約された環境下の生活を通じて社会道徳心人間性などを醸成できる場を提供し、あえて様々な場面を設定したプログラムの展開を図っています。

――深江丸が多くの依頼を受けてきた理由は?

 様々な打診や依頼があったとき、神戸大学練習船として恥ずかしくない対応と、効果的で、利用する皆様が喜び満足していただける運航の提供をあれこれ思い描きながら判断し実行に移ります。その結果、さすが神戸大学だと思われることが私たち運航スタッフにとっては大きな糧であり、さらなる運航を提供したいという気持ちが芽生えます。搭載する実験機器、居住性や船の持ちうる能力と余裕などを盛り込んだ最大限度の運航を提供できることは深江丸にとりまして大きな喜びであり、自信でもあります。利用者と船側の双方に納得と満足のゆく航海を常に目指しています。

――深江丸から海神丸へ、感じることは。

 現深江丸は、船としての機能維持のための航海を除き、12月末日をもちまして全ての運航を終了し、その後は新船との交代に備えます。この頃には私の船長としての役目も終わることになります。新船の海神丸(かいじんまる)は深江丸の何倍も進化した災害対応型高機能練習船であり、これまでの経験を踏まえて様々な改良・改善が施され、また、最新の装備とともに居住性なども格段に向上しています。海に開かれた神戸大学練習船として、その持ちうる能力を発揮して、さらなる活動と新たな活躍の舞台への進出を大いに期待しています。新メンバーによる安全な航海を祈ります。UW(ユー・ダブリュ:国際信号旗:「貴船のご安航を祈る!」)

 

関連リンク

  • 海洋政策科学部

www.ocean.kobe-u.ac.jp

 

記事を担当した学生