神戸大学学生広報チーム・活動報告

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【取材報告】新しい学部や練習探査船も!!――神戸大学「海神プロジェクト」(後編)

前編では、新学部「海洋政策科学部(仮称)」について詳しくお聞きしました。前編をまだ読まれていない方は、ぜひこちらからお読みください!

後編では、海神プロジェクトの2つ目、3つ目の柱である、新練習探査船と「海共生(うみともいき)研究アライアンス」についてお聞きします。

 

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竣工から33年目を迎えた深江丸

新練習探査船の建造について

 ――新練習探査船は、現在ある「深江丸」とは主に何が違うのでしょうか。

巽教授:深江丸はもう33年使っていて、おばあちゃんなんです。長年、深江丸の代替船というのは海事科学研究科の悲願でした。

その上で、深江丸と新練習探査船との違いは、物理的なことで言うと少し船体が大きくなり、船の中が現代的に使いやすくなります。また、単に大学で教育・研究に使うのみならず、社会的に貢献できる、特に災害時の海からの支援という意味で非常に大きな役割を果たすことができるようになるのも重要な点です。

それから、今の深江丸は「練習船」なので、探査機能はもともとついておらず、4年前に我々のKOBEC(神戸大学海洋底探査センター)ができた時に仮で機器をつけて使っていました。今度は最初から探査機能をつけているので、探査研究が格段にしやすくなると思います。

大学が持っている社会性というところからすると、この船には、ある意味でみんなの「アイドル」になってほしいんです。皆さんが「神戸大学の船素敵だね」「かわいいね」とか、なんでもいいんですけれど、そういう風に興味を持っていただくのがすごく大事だと思っています。

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岡田さん:大学が持っている船がアイドルになるということは、普通あまりないですよね。練習船というのは、粛々と作られて粛々と運行されることが多いですから。ですがそうではなくて、「海の神戸大学」のひとつの具体的な象徴、「あ!あれが神戸大学の船なのか」と一目見てわかるようなものを造っていきたいと思いますね。

 

 ――災害支援というのは、やはり阪神・淡路大震災の経験が影響しているのでしょうか。

巽教授:それは非常に大きいと思います。今までも深江丸は水を運ぶなどの活動はしてきたのですが、海上支援というのはもっといろんな形が取れると思うんです。様々な支援の形を考えることは、阪神・淡路大震災を経験した神戸にある大学として当然ですし、そのような取り組みを通じて防災の意識が広がっていくことが大事だと思っています。

海共生(うみともいき)研究アライアンスについて

――次に海共生研究アライアンスについて伺います。そもそもなぜ、「うみともいき」という読み方にされたのでしょうか。

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巽教授:普通は「きょうせい」と読みますよね。でも、日本には「共生(ともいき)」という概念が昔から存在しています。例えば、ヤマタノオロチの話などにも表れているのですが、火山現象や地震現象などと「一緒に暮らしていく」というような考え方です。その考え方についても様々に研究していきたいので、それで敢えて「ともいき」という読み方にしたんです。

岡田さん:ちなみに西洋では、自然というのはどちらかというと人間と敵対するもので、人間はそれを克服していくんだという捉え方をするんです。しかし日本ではそうではなくて、共にあって一緒に生きていくものだという捉え方で、文化的な違いがあります。そこに注目している、重きを置いているということなんです。

 ――研究内容について、教えてください。

巽教授:海共生研究アライアンスは、私が所属しているKOBECも含めた様々な組織が関係するネットワーク型の組織です。なのでまず、KOBECで行っている研究についてご説明します。

KOBECで我々が今一番集中して調べているのは、海底の巨大カルデラの噴火予測に向けた基礎研究です。具体的には、カルデラの下にあるとされているマグマが本当にあるのかどうかを調べています。世界中でまだ誰もそのマグマを実際に確認したことがないので、それを見つけようとしています。陸上ではいろいろ制限があって探査が難しく、海で調べる方がずっとやりやすいんです。

また、海底のカルデラでは「熱水鉱床」というものがよくできていることが分かっていて、それも含めて研究しようとしています。海で起こる火山現象や地震現象、そして我々が恩恵をこうむっている熱水鉱床とそれらの因果関係などを調べているのがKOBECです。

 そして、海共生研究アライアンスでは、今KOBECでやっているような研究のほかにも、例えば新しい海中ロボットや自立型の潜水艇のようなものを開発していくという、工学的な最先端の研究も行っています。日本はそういう分野ではなかなか世界で一流にはなれていないんです。これからは、海洋状況把握といって、海の中のいろんな状態を調べるときや、防衛の面においても状況把握をするときに、必ずそれらが必要です。また、海底に光ファイバーを引っ張って、地震地殻変動などを見るような研究もします。

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さらに、他分野の先生方との共同研究も行おうと考えています。この研究アライアンスの構造的な特徴は、今までの研究所のような縦割りの形式とは違って、完全なネットワーク型で、思いを同じくする人たちや、異なる分野の人たちが集まって議論をしていくところです。

 例えば、海底に構造物を作るときに必要な杭の打ち方を、土木の先生方と一緒に研究したり、港湾の物流や世界中の物流のネットワークをどうすれば効率的にできるかを、経済・経営分野の先生方とシミュレーションも含めて解析したり。これからの災害をきちんと予測していくために、統計・確率の研究も行ったりなど、様々です。

 それに加えて、日本人の中で昔から培われた「災害観」があるのですが、それで果たしてこの火山活動や地震が多いところで、これから生きていけるかというようなこともきちんと考えていき、日本人の災害観を再構築したいという思いもあります。
このように、ものすごく範囲が広いのですが、全てに共通しているのは「海」。いろいろな基礎研究から始まって、経済的なことから倫理・哲学、数学的なことも含めて、シンクタンク機能を持ちたいんです。これらの研究や解析に基づいて、日本はこういう政策をとるべきではないかということを発信していきたいと思っています。
政策の提言まで視野に入れているので、もちろん行政や政治家の方々にも入っていただくと思います。研究者や行政、そして一般の方も巻き込んで、神戸大学発の新しい海洋政策を打ち出せたらと考えています。

終わりに

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巽教授:我々は、海についての様々なことを、一般の方、特に若い人やこどもたちに知ってもらいたいと思っています。

岡田さん:そういう活動をやっていくつもりですが、海について「原体験」のようなものを持つ人たちが育って、神戸大学に集まってきてくれるといいなと思いますね。

この海神プロジェクトに手塚治虫さんのキャラクター「海のトリトン」を起用しているのも、若い人たちトリトンをあまり知らないと思うのですが、あらたに「かわいいな」と思ってくれる人たちが出てきたらいいなという思いを込めています。

巽教授:海に関係した職業に就く人を育てるというのが我々の使命ですが、それだけではなく、「神戸大学の学生は、海に対する意識が他の大学とレベルが違う」と言われるようにしたいですね。今後、全学共通科目で海のリテラシー教育を展開していく予定ですので、どの学部の学生さんにも関心を持ってもらえればと思います。

 

――巽先生、岡田さん、ありがとうございました!


関連リンク

取材を担当した学生

  • インタビュー:経済学部4年 田中凌太
  • インタビュー:経営学部4年 藤田 奈菜子