神戸大学学生広報チーム・活動報告

メンバーが取材した神戸大学の情報をお届けします!

【取材報告】神戸大学吹奏楽部第54回定期演奏会~『輪』でつなぐ伝統の音~

 12月4日(土)、神戸文化ホールにて、「神戸大学応援団総部吹奏楽部第54回定期演奏会」が開催されました。今回は本番の様子だけではなく、部員の方にもお話を聞き、演奏する側から見た演奏会について、また、開催にあたっての思いについて取材させていただきました。演奏会の裏にあった、部員のみなさんの想いをお伝えします。

 今回、本番前の準備に忙しい中で取材に応じてくださったのは、部長の土屋祥仁さん(工学部機械工学科・3回生)です。

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――吹奏楽部の取り組みについて、どういった事に重点を置いて練習しましたか?

 「輪翔」をテーマに掲げて一年間練習してきました。「輪唱」にもちょっとかけてるんですけど、「輪」っていう字には『みんなで一緒になって』、『一致団結して』、「翔」という字には『前に進む』という意味があるので、「コロナに負けずに一致団結して、前へ前へと進んでいく部活にしたい」という気持ちが込められています。

――コロナ禍で活動にも多くの障害があったと思うのですが、どういうことが特に大変でしたか?

 一番大変だったのは練習場所の確保ですね。学内の使える施設がコロナで限られているうえ、音を出して練習できる場所って近隣にもあまりないんです。他の練習場所を見つけて、重たい楽器とかも自分たちで車を出して運搬しないといけなかったのが、しんどかったですね。

――お客さんに安全で素晴らしい演奏会を提供するため、どのような対策や工夫を行っていますか?

 電子チケットを導入しました。HPなどから事前予約という形で申し込んでもらい、購入していただいたお客様の身元がわかっている状態でお越しいただくようにしました。電子チケットは昨年、身内だけの演奏会で試験的に導入していたもので、今年はそれを一般のお客様にも本格的に実施させていただいた感じです。

 座席の距離、アルコール消毒などの基本的なところも手を抜かず、お客様の安全をきちんと管理出来るように取り組みました。

――今日の演目へは、どんな思い入れがありますか?

 基本方針として、いつも曲候補を挙げて部員みんなで投票して決めるんです。だから、テーマにそって曲を選んでいるわけではなかったんですが、2部の最後の曲「レ・ミゼラブル」のメドレーについては、元の映画の「主人公が重圧に苦しむ中でも自由を求めて戦い抜く」という感じのストーリーを今の状況に重ねてしまって。コロナの影響で制約が多く、重圧がある状況でも、いちばん最後の「民衆の歌」という曲のように、「一年間よく頑張ったね」、「みんなで気持ちよく歌って締めにしたらいいね」と、解放されて自由になるというイメージを込めています。

――部の伝統をつなぐ難しさや大切さはありますか?

 演奏会などの行事ができないというのもあって、なかなか難しいですね。応援団総部の吹奏楽部なので、応援団と一緒に体育会系部活の応援活動もする予定でしたが、楽器の演奏は飛沫が飛ぶからだめになってしまいました。また、応援団とは別で日本生命の社会人野球の応援活動もしていまして、京セラなどの球場にいってチームの応援団と一緒に演奏していたのですが、それもコロナで二年間できていません。こういう伝統は、後輩に経験させて初めて引き継げるんです。できる限り文章や動画で伝えていますが、伝わっているか不安です。

 でも、依頼活動の方は、社会人野球が球場に応援団を入れていいという方向性になってきているので、来年からできたらいいですね。そのときは自分も支えていきたいなと思います。

――今日の演奏を通して、お客さんに感じて欲しいことやメッセージをお願いします。

 今年去年とコロナでどうしても制約が多い中で、部員もいろいろなことを頑張ったのはもちろんですが、部員の周りの方々、家族や友人にも支えられてきたと感じています。今日招待されている方々に、吹奏楽部からの感謝を伝える機会にもなってほしいですね。演奏を通じて、今年一年間のご協力ありがとうございました、という感謝の気持ちを伝えられたら一番良いんじゃないかなと思います。

――ありがとうございました。

 18時、老若男女多くの観客がホールを訪れました。

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 二時間の演奏会は、静かな雰囲気のメロディーで始まります。次第に増えていく音、軽快になっていく曲調。聞いていると感嘆のため息をついてしまいそうな滑らかなメロディーの曲や、思わず一緒に手をたたきたくなるようなテンポの速い曲などが交互に演奏され、観客は次々に新たな世界へ引き込まれていきました。開演前や休憩中には少ない人数でのメドレーが演奏され、長い休憩も十分に楽しむことができました。一曲が終わるごとに大きな拍手が上がり、二部に分かれたコンサートはそれぞれの曲の色を残しながらもあっという間に過ぎていきます。最後の「民衆の歌」も大迫力で、聞いているこちらにも、まさに空を翔けているような爽快感を与えました。アンコールにもこたえてくださり、終わってももっと聞いていたいと思える、そんな演奏会でした。音楽に詳しくない筆者ですが、その圧倒的な演奏にすっかり心を奪われてしまいました。

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 今回取材をして、神戸大学応援団総部吹奏楽部の魅力の一端に触れることができたのではないかと思っています。演奏への真摯な態度、逆境に負けない強さ、そして部員の皆さんの明るい笑顔とすばらしい演奏。来年のサマーコンサートでも、さらに進化した姿を見られるかもしれないと、もう期待している自分がいます。聞いているこちらにまで元気をくれる演奏会に、ぜひ皆さんも足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

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kobewind.jimdofree.com

記事を担当した学生

  • 文学部 1年 後藤 沙綾 

【取材報告】神大生が小学生にプログラミング教育 「海・ジョブズ」

 10月23日、24日の2日間にわたり、六甲台第2キャンパス眺望館1階の神戸大学 バリュースクールの教室にて、2021年度 海塾 ~Techno-Ocean 2021 プレ事業~「プログラミングで、海・ジョブズ -プログラミングを通して、海洋のお仕事を知ろう!-」が開催されました。このイベントは、テクノオーシャン・ネットワークが主催する、次代を担う子どもたちに海洋への興味や関心を深めてもらう青少年啓発事業の一環として、神戸大学バリュースクールが共催、株式会社Artec(アーテック)がプログラミングロボットの提供において協力しています。教室では、本学大学院システム情報学研究科システム計画研究室の学生らの協力のもと、小学生たちがプログラミングに取り組みました。

 このイベントは、2日間で4回、計20名の小学生が参加しました。司会進行は、本学数理・データサイエンスセンター・特命助教の渡邉るりこ先生が勤め、はじめにシステム情報学研究科・准教授の藤井信忠先生が、「海と、船と、仕事」という題で海の歴史、海の自然、海上で行われる貿易や漁業などの産業について話しました。

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 次に、プログラミングの課題に取り掛かりました。課題には、工学部情報知能工学科4回生の山口凌央さんが書いた、プログラミングを通じて海に関わる知識やテクノロジーが学べる、カクレクマノミの「ウミちゃん」を主人公にした脚本が使用されました。小学生はそれぞれ、「海へ逃げよう」「サメから逃げろ」「宝箱を探せ」「家族と再会」「故郷に帰ろう」と課題別に5つのストーリーに分かれ、大学生が小学生にロボットの仕組みやプログラミングについて説明しました。小学生たちはロボットの動きや状態を意思通りに調節する“制御”に試行錯誤し、微調整を行って何度もチャレンジしていました。プログラミングをすでに経験しているという小学生も多く、知識や興味の深さに大学生も驚いていました。ここでは、その一部を紹介します。

 

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 上記画像の班の課題は、センサーが付いたロボットが、サメ(サメのイラストが描かれた壁)に食べられないようにゴールまで進めることです。サメに見立てた壁を赤外線センサーが検知して、ロボットが前後左右に動きます。「どれくらい壁に近づいたら」、「どのように動くか」を決め、制御することがポイントです。 

 

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 上記画像の班の課題は、故郷へ帰るルートをプログラミングすることです。海流に沿って進むと早くなる、逆らって進むと遅くなるといったことが考慮され、曲がるところや速度を変える場所が色で設定されています。そのため、シミュレーションと分析を行い、色を判別する赤外線センサーを付けたロボットが、ルートに沿って動くよう制御することがポイントです。 

 その他、コンテナを運ぶ課題や、音センサーを用いる課題、記憶力を用いる課題などがありました。

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 最後に、各班が成果を発表しました。本番ではロボットが想定通りに動くかわからず、操作に集中力を要する課題もあったため、会場全体が緊張感に包まれ、発表を皆で静かに見守りました。1回目でロボットがうまく動かない場合は、2回目、3回目と真剣に取り組む班もありました。5つの班の発表をつなげ、一つの物語が完成しました。

 プログラミング教室終了後は、他の班が取り組んだロボットに触れて、学生と会話を交わす小学生もいて、プログラミングに対する熱意に驚かされました。

プログラミング教室に参加した子どもたちに、感想を聞きました。

・ロボットの動きの速度や角度の微調整を20回は行い、いろいろなことを考えながらプログラミングができて楽しかった。この教室でやったことを覚えておいて、大学でプログラミングをもっと勉強したいなと思った。(小学4年生・男子)

・教室があることをお父さんから聞いて、参加することにした。記憶力を使うゲームで、ロボットを操作でき、楽しかった。プログラミングの知識が増えたので、これからはロボットをプログラミングで動かしてみたいと思った。(小学6年生・男子)

神大生を代表して、関原規晃さん(工学部情報知能工学科4年生)に、プログラミング教室を終えての感想を聞きました。

 小学生にいかにプログラミングの面白さを分かってもらうかということを大切にしました。学びに来る小学生がプログラミングについてどれくらい知っているのか分からなかったので、課題の難易度設定が難しく、また、海の仕事とプログラミングをどう関連付けて教えるか考える際にも工夫がいりました。本番では、子どもたちが、「どうやってやるんだろう」「どうすればうまくいくんだろう」と真摯に考えながらプログラミングに取り組んでくれたのが嬉しかったです。

「海と、船と、仕事」をお話した藤井信忠先生に、プログラミング教室全体について聞きました。

 プログラミング教室の内容は、イベント開催まで2ヶ月ほどかけて、すべて学生が主体的に企画しました。当日までは、ロボットが想定通り動かないといった不安もありましたが、本番は、めちゃくちゃうまくいっていたと思います。教えるプロセスは自分が学ぶプロセスでもあるので、学生が、教えるたびに工夫を重ねて変化していく成長を見ることができてよかったです。

 「海と、船と、仕事」のお話は、”海の仕事”を知ってもらうことが目的でしたが、そもそも海のことをみんながあまり知らないと思い、衣食住を支える海の仕事についてだけではなく、海の歴史や生態系を加え、様々な面で人の生活が海と密接に関わっていることを伝えました。私自身も海と人との関わりを再認識する機会になりました。

海塾について、テクノオーシャン・ネットワーク事務局の中村恭一さんに聞きました。

 テクノオーシャン・ネットワークは、「Techno-Ocean」という海洋分野の最新技術、製品、研究成果を企業、団体、大学、研究機関等が展示・発表する、1986年から隔年開催されている国際コンベンションを軸にした、海に関連した科学技術に携わる産学官関係者のネットワークです。テクノオーシャン・ネットワークは、「Techno-Ocean」での関係者のつながりを、イベント開催ごとのものから、継続的なものにするため、2000年に設立されました。このネットワークを生かして様々な企業や学校、人が連携することで、1人または1つの団体・企業ではできないような幅広い取り組みができています。その一つに、次世代の人材育成として、子どもたちに海に関わる技術を教える体験型企画「テクノオーシャン海塾」があります。このイベントもその一環ですし、過去には水中ロボットの操作体験も行いました。今回も、株式会社アーテックにプログラミング教材(ロボットなど)の提供を、神戸大学大学院システム情報学研究科システム計画研究室に教育内容の企画をしていただくなど、企業や大学との連携によって開催できました。

Techno-Ocean 2021開催概要

[日程]2021年12月9日(木)~11日(土)
[会場]神戸国際展示場2号館

[参加]無料・要登録 ※有料プログラムあり

[申込]https://event.techno-ocean.com/
[主催]テクノオーシャン・ネットワーク
[プログラム一覧]https://www.techno-ocean2021.jp/category/program/

 

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www.value.kobe-u.ac.jp

www.csi.kobe-u.ac.jp

記事を担当した学生

  • 文学部 1年 岡島 智宏

【取材報告】丹波篠山フィールドステーション管理者・清水夏樹先生インタビュー(後編)

兵庫県中東部に位置する、神戸大学ともかかわりの深い地、丹波篠山。ここで丹波篠山フィールドステーションの管理者を務める農学研究科特命准教授の清水夏樹先生にお話を伺いました。

後編では、清水先生ご自身の研究活動に迫っていきます。また、清水先生が今年5月に丹波篠山市内にオープンしたシェアハウス、「篠山スタディステイ」についてもお話を聞きました。

 

清水先生の研究について

――丹波篠山に来るまでの清水先生は、どんなことをしていらっしゃいましたか?

 研究者になって最初の30代は、農林水産省の研究機関で、農林水産施策の研究をしていました。40代は京都大学で学生のインターンシップの世話などをする学生教育プログラムや大学での研究成果を地域に還元するプロジェクトに関わっていました。そして、50代という研究者最後の10年は研究成果の地域還元、「実践」に身を置こうと考えていました。ちょうどそのとき、丹波篠山フィールドステーション駐在のポストが空いていることを知りました。丹波篠山は大都市から遠すぎず、農村で古くからの歴史があり、見どころが多い、私にとってちょうどいい、パラダイスのような場所でした。そんな場所に住めるならと、丹波篠山に行くことを決めました。

――丹波篠山では、どのような研究をしていますか?

 丹波篠山の課題は、地域をもっと活性化させようという、地域の方々の「やる気スイッチ」が入っておらず、現状で満足していることです。丹波篠山は、食べ物がおいしく、景色がよく、蛍が飛んだり鳥が鳴いたりと自然豊かで、大阪・神戸・京都といった都市からもアクセスがいい、「ほどほどに幸せ」な場所なので、将来への危機感を感じにくい場所です。しかし、高齢化が進み、地域の危機は確実に迫っています。そんな中で、市民の方々のやる気スイッチを押すために、「地域づくり人材育成に向けた地域分析」、「アフターコロナにおける農村集落の維持と活性化のための地域診断」といった調査研究をしています。具体的には、統計とアンケート、地域の方々への聞き取りで網羅的に地域を調べて回り、どこにやる気スイッチがあるのか、どれぐらいの人がやる気スイッチを持っているのかを調査しています。そして、地域の方のやる気が少しでも見えたら、より具体的なアドバイスを提案します。「やる気スイッチ」を探し、押すことで地域に貢献できたらと思っています。

 他には、私は農村計画を専門分野としているので、丹波篠山市の地域づくりの中心施策である「ワクワク農村未来プラン」にも関わっています。これは、行政(丹波篠山市)が何か大きな建物を建てて地域を活性化させるのではなく、地元の人々が自分の周りのものを使って小さな活性化を目指すという施策です。私は丹波篠山で研究者、市役所職員、コンサルタントの3役をやっているようなものです。

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篠山の風景
――丹波篠山では、ご自身のこれまでの研究を「実践」したいとおっしゃていましたが、具体的にはどのような「実践」の仕方をお考えですか?

 今、地域の資源を活用して地域を盛り上げたいというニーズがあります。その盛り上げ方は、自分も模索していますし、自分の知識が足りない部分は、他の研究者の人たちに助けてもらっています。ここでは、例として、「灰屋(はんや)プロジェクト」と「お堂の管理プロジェクト」を紹介したいと思います。

――「灰屋プロジェクト」とは、どんなプロジェクトですか?

 灰屋は、「はんや」と読み、丹波篠山の農業を支えた伝統的な装置です。

 具体的には、地域で刈り取った芝や雑草を土と一緒に蒸し焼きにした有機肥料を作るための建物です。この灰屋で地元の草木を肥料に変え、畑に投入してきたからこそ、丹波篠山の黒豆生産は続いてきたと言われています。かつては一家に一基以上ありましたが、化学肥料の導入により灰屋で肥料を作る必要がなくなると、灰屋が使われなくなり、倉庫にされたり、維持管理の問題や土地改良事業の影響で解体されたりしてきました。その結果、今では灰屋は300基ほどしか残っていません。

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修復前の灰屋

 このプロジェクトでは、灰屋を見直すことをきっかけに地域を元気にできないか考えています。例えば、地域の方々が主体となって、灰屋で作る肥料が肥料として効果を持つのか、農学部の土壌学の先生が講演する地域勉強会を開催しました。また、丹波篠山市の内外の人に灰屋を知ってもらいたいと思い、春に灰屋ウォークラリーを行い、そこで撮った写真の展覧会を11月に開催する予定です。さらには、崩れかけていた灰屋を地域の方に貸していただき、それを再建するというワークショップもやっています。これらの活動を支援するのが私の仕事です。灰屋の壁塗りを通じて伝統的な左官の技術を学べるということで建築の学生などに人気です。 

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修復活動の様子

 私自身の研究としては、灰屋の現代ならではの価値とは何か、環境的価値、農業技術的価値、文化財的価値、観光的価値といった様々な「○○的価値」という観点からみると、どのような灰屋の守り方があるか、定義づけできたらと思っています。

――「お堂の管理プロジェクト」とは、どんなプロジェクトですか?

 丹波篠山市内には、多くの地域にお堂やお地蔵さんがありますが、地域のお年寄りだけでは管理が難しいので、各地域の自治会では当番制で管理しています。しかし、若い人の中にはお堂の管理方法がわからないため、管理当番が嫌で自治会から抜ける人もいます。自治会から若い人が抜けると、地域のコミュニティ機能の維持が難しくなります。

 そこで、管理当番が嫌にならないような解決策として、地域の方にお堂の管理方法を聞き取る調査を行い、その内容を若い人にも読みやすい簡潔なお堂の管理マニュアルとしてまとめるという取り組みをしました。市内のある地域で行ったところ、若い方にも年配の方にも好評でした。他の地域でもお堂の管理に関して同様の課題を抱えています。今後は高校生や大学生にもプロジェクトに加わってもらい、お堂の管理マニュアル作りを丹波篠山市全体に広げていきたいと思います。

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お堂管理マニュアル

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ヒアリングの様子

「篠山スタディステイ」について

――どんな経緯でシェアハウスを作ることになったのでしょうか?

 私自身がフィールドワーカーで、学生時代から足しげく地域に通って地域の方に話を聞いていましたが、フィールドワークはお金がかかりました。お金が足りないため、地元の人に泊めてもらうことが多かったのですが、家の人に気を遣うため、ストレスになります。しかし、フィールドワークでは地域に長く滞在しないとわからないこともあります。そこで、フィールドワークを気軽にできるように、そしてできるだけ長く滞在できるようにシェアハウスを作ろうと考え、昨年1年間家を探していました。良い物件を貸してもらうことができ、抜けた床を修復したり、トイレ、お風呂、台所を改装したりして、3つの個室と共用のリビング、キッチン、水回りを備えたシェアハウスをオープンしました。個室での滞在なので周りに気を遣わずに滞在ができ、またシェアハウスという一種の「家」なので、家の中で交流することもできます。また、コロナ禍では、フィールドワークで宿泊する際の雑魚寝が禁止されていますが、このシェアハウスは個室に滞在するので、コロナ禍でも大丈夫です。

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シェアハウス外観

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シェアハウス内観(リビング)
――シェアハウス滞在は、どんな魅力がありますか?

 丹波篠山の朝と夜が体験できることです。この前来た学生たちは、空の星の多さに驚いていました。周囲は街灯がなく真っ暗なため、星がその分きれいに見えます。秋に入り、鹿の鳴き声も聞こえます。朝になると、8時前から草刈り機の音が響くなど、農家さんの1日の生活パターンを肌で体感できます。また、学生が来ると近所の方が喜んで野菜やおかずを持ってきてくれます。

 なお、コロナ禍ということもあり、長期滞在をする人がまだいません。フィールドに長期滞在しないとわからないことはあらゆる分野にあるので、長期滞在にも使ってもらいたいです。長く滞在していると地元の人にも顔を覚えてもらえ、調査しやすくなります。あわよくば、丹波篠山に定住する人が出たらいいなと思います。

最後に、神戸大学の学生へメッセージをお願いします!

 新型コロナウイルスの影響でオンライン授業が多かったと思いますが、大学生は受け身ではない学びができる最初のチャンスだと思います。学校で座って話を聞くだけでなく、「みんなもっとフィールドに出よう」と本当に伝えたいです。フィールドで学ぶことは面白く、これからの人生を豊かにしてくれます。

“フィールドに出よ!”

 


篠山スタディステイ

【場所】丹波篠山市新荘

利用したい場合の連絡は,清水夏樹(natsuki@silver.kobe-u.ac.jp)までメールで

滞在時期・期間などは要相談。研究・調査,地域連携活動の利用者を優先。

【宿泊料】学生,研究生等は無料(代わりに共同利用部分の掃除やリノベーションの手

伝いあり)

【部屋】3部屋(6畳2室,8畳1室),各室に寝具,リネン,タオル有(洗面用具,パジャマは持参)

【食事】自炊(お米以外の食材は持参)

Wi-Fi 】全室に有

【アクセス】丹波篠山フィールドステーション(丹波篠山市中心部,JR篠山口駅からバスで20分)から3.5km(自転車で20分,レンタル自転車あり)

※周辺にバス等の公共交通なし

※駅からの送迎なし

※自家用車やバイクでの来訪可能(駐車場有、ただし安全に気をつけて)

 

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sasayamalab.jp

記事を担当した学生

  • 文学部 1年 岡島 智宏

【取材報告】丹波篠山フィールドステーション管理者・清水夏樹先生インタビュー(前編)

兵庫県中東部に位置する歴史と自然が豊かな地、丹波篠山。ここは、神戸大学とも深いかかわりを持つ地域です。学生が授業や研究、課外活動で訪れたり、地域おこし協力隊として居住したり、または研究者がこの地で研究を行ったり――。 このような丹波篠山での様々な活動の拠点となるのが、丹波篠山市の中心部に位置する、丹波篠山フィールドステーションです。今回は、ここの管理者を務め、ご自身も研究者として丹波篠山で活動する、農学研究科特命准教授の清水夏樹先生にお話を伺いました。

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丹波篠山フィールドステーションについて

――丹波篠山フィールドステーションはどのような場所ですか?

 丹波篠山フィールドステーションは部署名ではなく、場所の名前です。かつては「神戸大学丹波篠山フィールドステーション」と名乗っていましたが、いまは「神戸大学」という名称を外しています。なぜなら、神戸大学だけでなくすべての大学の学生や研究者、または丹波篠山市の市民の方に利用してもらえる、ニュートラルな場所にしたいからです。
そして、丹波篠山フィールドステーションは主に3つの機能を果たしています。
それは、

丹波篠山で研究や農業支援活動、ボランティアをしたい人たちにとっての拠点
②地域おこし協力隊の拠点
③シェアオフィス

の3つです。

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フィールドステーション外観
――「①丹波篠山で研究や農業支援活動、ボランティアをしたい人たちにとっての拠点」として、どのような業務を行っていますか?

 丹波篠山で様々な活動をしたい方々から、フィールドの場所や関係者の連絡先、研究やボランティア活動に関することなど、様々な相談を受けます。我々は丹波篠山に関する情報をたくさん持っていますので、フィールドの紹介など様々な支援をします。
 具体例として、丹波篠山市内に福住という地域があります。ここは国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、移住者が多く、建築、文化財、まちづくりなどの様々な分野の学生や研究者に人気があります。しかし、この地域に関わる調査が多くなると、住民の方々は何度もインタビューやアンケートに答えることになり、学術研究が住民の方々にとって煩わしくなるおそれがあります。そのようなことが起こらないよう、フィールドステーションが調整役をしています。以前行われた研究や論文を紹介するアーカイブ機能も重要視しています。

――「②地域おこし協力隊の拠点」として、どのような業務を行っていますか?また、地域おこし協力隊の方々は、どんな活動をしていらっしゃいますか?

 地域おこし協力隊とは、自治体の嘱託を受けて、地域資源を活用した様々なビジネスを行う人たちです。彼らは地域になじむまでは地域において孤独で、またビジネスの情報もあまり持っていません。そんな彼らが心折れずに活躍できるよう、定期的にミーティングや相談会を設け、協力隊員同士で交流、情報交換ができるようにしています。
 地域おこし協力隊は主に2種類あり、一つが「起業支援型」です。彼らは地域資源を活用した様々な事業で起業しています。例えば、地元の野草や薬草を使ったアロマトリートメントサロンと宿のセット運営、閉校した小学校の校舎を使った宿泊施設の運営などです。そして、もう一つの種類が、「半学半域型」、これは「半分学校、半分地域」といったような意味で、大学生が丹波篠山に移住し、丹波篠山から大学に通いつつ、週3日地域おこし協力隊として活動し、地域活性化に取り組むという制度です。
 地域おこし協力隊になった方々は、協力隊卒業後もほとんどが丹波篠山に残っています。

――「③シェアオフィス」とありましたが、シェアオフィスはどんな場所ですか?

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 市役所に近い立地ということもあり、市役所の職員の方が市民との面会やちょっとしたミーティングで使われたり、丹波篠山市に起業に来られた方が情報や交流を求めていらっしゃったりします。全館にWi-Fiを装備し、各部屋にzoom用のモニター、カメラ、マイクを完備することで、オンラインミーティングにも対応しています。
 丹波篠山市はネットカフェなどがなく、あまりインターネット環境がよくありません。書類のコピーや調べものをできる、ネットカフェの代わりになるような場所があったらいいなというニーズにも応えています。

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篠山の風景

神戸大学丹波篠山の関わりについて

――神戸大学生と丹波篠山の人々はどんな関係性でつながっているのでしょうか?

 大学の学生と地域の方々が最初に接するのが農学部の「実践農学入門」という授業です。
 学生が丹波篠山の農家に「弟子入り」し、農業を学びます。そこで地域の方々と学生は仲良くなり、地域の方々の中には、学生をまるで「地元の中のうちの子」のように受け入れてくれる方もいます。実践農学入門の授業をきっかけに、「にしき恋」や「AGLOC」のようなサークル活動で丹波篠山に通い続ける学生や、地域おこし協力隊として活動し始める学生もいます。

――神戸大学丹波篠山の人々がかかわりあうことによって、学生側にはどんなメリットが生まれていますか?

 農業や環境は、机上で学ぶだけでは限界があり、現場で本物を知って学ぶことが重要です。丹波篠山がその「現場」となり、市民の方々が現場の生の声、生の課題を提供してくれることで、学生が現場で本物を学ぶことができています。
 また、学生が丹波篠山の課題に対して解決策を提案することがあります。中にはまだ薄っぺらい提案も多いのですが、地域の方々はそれを聞いてくれて、「ここがまだおかしい」「ここがまだ考えが足りないんじゃないか」とアドバイスしてくれます。

――神戸大学丹波篠山の人々がかかわりあうことによって、丹波篠山ではどんなメリットが生まれていますか?

 丹波篠山の人々の中には、学生が定期的に来るだけで元気が出ると言ってくれる方がいます。また、丹波篠山市には鳥獣害、外来植物といった様々な課題があります。神戸大学は、科学的な専門知識を用いて丹波篠山市の様々な課題の解決を目指す「地域創造研究」という形で、それぞれの課題に専門知識や解決策を提供しています。

――コロナ禍において、丹波篠山ではどのような変化が起きましたか?

 実践農学入門が昨年は開講できず、今年は開講できたものの、これまでとは異なるプログラムで行いました。例年は、学生や農家の方々全員で田植えを行い、親しくなった後に小さな班に分かれていましたが、今年度は最初から小さな班に分かれてそれぞれの農家さんのもとへ行きました。この状況では学生がネットワークを作りにくいことが心配です。
 また、大学が地域の方々に専門知識を提供する場になっている市民向けセミナーも開催できず、市民との交流の機会が減っています。そのかわりに、私が地域の方々のもとをまわって、「困りごとはありませんか?」、「解決できることがあればお手伝いしましょうか」と聞いてまわる、「御用聞き」のようなことをしています。今でも市民の方々がフィールドステーションを訪ねてくれたり、「家に来て話を聞いてほしい」と連絡してくれたりしているので、大学と丹波篠山の人々の絆は薄くなっていないと信じています。

 

後編はこちら

 

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sasayamalab.jp

 

記事を担当した学生

  • 文学部 1年 岡島 智宏

「ありがとう深江丸」イベント開催記念!~船長による見学ツアー~

海事科学研究科附属練習船「深江丸」は、学部学生の実習を始め、授業、実験、セミナー、調査・研究、さらには研究会や海事の啓発活動、海事関連企業や団体の研修、近隣の他大学学生への教育提供など、様々な目的や場面でこれまで活躍してきました。そんな深江丸ですが、今年いっぱいで就航以来34年の長い歴史に幕を下ろします。そこで、深江丸のこれまでの功績を称えるために9月24日には「ありがとう深江丸」イベントが開催されます。イベントに先駆けて深江丸の魅力や思い出をゆかりのある方々に伺いました。

  • 船長による見学ツアー

f:id:KobeU_stu_PRT:20210831143433j:plainこのページでは、深江丸の船長を25年間務めた矢野吉治先生による船内ツアーをご覧いただけます。紹介しきれない部分もありますが、船内の雰囲気を少しでも感じていただければ幸いです。

深江丸概要

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  • 総トン数:449.00トン
  • 全長:49.95メートル
  • 幅:10.00メートル
  • 喫水:3.20メートル
  • 最大搭載人員:64人(乗組員12人・教員4人・学生48人)

船橋(せんきょう)

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 まずは船の中枢である船橋から。ここで船を操縦します。船を操縦することを操船といいます。エンジンがまだなかった帆船時代は、船の一番後ろで風と帆をみながら舵を取っていました。蒸気エンジンの登場で、左右両舷の水面付近で外輪(水車)を回すことにより船を走らせるようになりました。そこで、2つの外輪が見えるところに橋をかけ、ここで操船するようになりました。このことから、この場所をブリッジ(橋)と呼ぶようになり、日本では「船橋」と呼んでいます。

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 学生実習時、緊張のあまりか、多くの学生がこのコンパスの針路ばかりを気にしてのぞき込んでばかりいます。しかし船舶が輻輳する大阪湾や瀬戸内海では、周囲の他の船の動き、陸岸の接近や水深など、いろんなことに注意を払いながら、しっかりとまわりを見張ることが重要です。それでこんな注意書きが貼られています。

 練習船実習の目的の一つは、座学で学んだことを実船において検分させること。実船の様々な場面において、いかに自分ができないかということを自覚させることも大切で、どうすれば安全でスムーズな操船ができるかということを考えさせ、判断させるために、実習時は、厳重な監督下、学生に操船を任せています。瀬戸内海は大小多数のいろんな船が行き交い、海上交通法規が集約されているため、神戸は地理的に最適な場所なんです。

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 舵はパワーステアリングで、人のわずかな力で船の一番後ろにある操舵機室の動力装置を介して水中にある大きな舵を動かします。ここから電気信号を舵機へと送ります。舵が実際にどれくらいの角度(舵角)で動いているかは船橋前面にある舵角指示器で確認します。

 この船、燃料1リットルでどのくらい進むと思いますか?ちなみに市バスだと、総重量が大凡20トンで、1.5~2キロメートルくらいでしょう。

……正解は、深江丸の場合、重量が770トン前後において、全速力で航走中は1リットルあたり大凡130メートルです。言いかえれば、770トンの物体をわずか1リットルの重油で130メートルも移動できるんです。たったそれだけ、と思うかもしれませんが、船は水の浮力を利用して大量の物資を運ぶことができます。航空機に比べてスピードが遅い分、時間はかかりますが、原油や鉄鉱石、石炭の輸送など、重量物の大量輸送において船に勝る輸送手段はいまのところ存在しません。四面環海、小資源の日本で文化的な生活を維持するため、見るもの・触るもの・口にするもの大半が海を通じて運ばれているんです。

エンジンコントロール

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 この船はM0(エムゼロ:マシナリーパワー・ノーパーソン)運転といって、航海中のエンジンルームは無人です。さらに夜間はエンジンが完全自動運転されていて当直はつきません。その代わりに警報が鳴ったときはすぐに駆け付けられるようになっています。しかしながら、船の超老朽化のために現状では夜間の当直も配置しています。

ギャレー(厨房) 

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教室 

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機関室

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 ここでは深江丸が使っている油をお見せしましょう。外航商船、内航の大型船やフェリーはC重油という、大凡軽油が2割、原油の分留後の残渣油が8割でできた油を使っています。深江丸はA重油という、大凡軽油が8割、残渣油が2割でできた贅沢な油を使っています。軽油成分が多い分、粘度の高いC重油よりもさらさらしています。

甲板部

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 この錨はKS-8型錨といって、とても貴重で世界に3つしかない錨です。本学部の前身の神戸商船大学で開発された錨です。KSは神戸商船の略です。この錨の特徴は、海底で安定し、また、海底を掴む力がとても大きいことです。国内のほとんどの船で使われているJISⅠ型錨に比べると、錨鎖を介して2倍以上の力で船を海底に留めることができるとても頼もしい錨です。

 

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 最後は船の前で記念写真を撮りました。船長による見学ツアーはいかがでしたか?

 船長へのインタビューや、乗船実習で実際に深江丸に乗った学生へのインタビューもぜひご覧ください!

 

関連リンク

  • 海洋政策科学部

www.ocean.kobe-u.ac.jp

 

 

記事を担当した学生

「ありがとう深江丸」イベント開催記念!~機関長インタビュー~

海事科学研究科附属練習船「深江丸」は、学部学生の実習を始め、授業、実験、セミナー、調査・研究、さらには研究会や海事の啓発活動、海事関連企業や団体の研修、近隣の他大学学生への教育提供など、様々な目的や場面でこれまで活躍してきました。そんな深江丸ですが、今年いっぱいで就航以来34年の長い歴史に幕を下ろします。そこで、深江丸のこれまでの功績を称えるために9月24日には「ありがとう深江丸」イベントが開催されます。イベントに先駆けて深江丸の魅力や思い出をゆかりのある方々に伺いました。

★機関長インタビュー

――学歴・職歴について

 神戸大学海事科学部の前身である「神戸商船大学」を平成3年(1991年)に卒業しました。在学中には、就航して間もない深江丸にて船舶実習を行い、マリンエンジニアとしての基礎を学びました。卒業後、運輸省航海訓練所(現:独立行政法人海技教育機構)に就職し、大型練習船のマリンエンジニア兼教官として勤務しました。

 令和2年(2020年)4月に本校へ転出し、本学講師であるとともに深江丸チーフエンジニアとして指揮することとなりました。学生時代にお世話になった深江丸へ恩返しできる機会を得られたことは、自分にとって、とても幸運だと感じています。また、次世代練習船である「海神丸」の建造監督(機関)も兼任しており、新旧練習船に関わることが出来て感謝の念に堪えません。

――これまでの深江丸を振り返って。

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 深江丸は、就航以来の約30年以上もの間、大きな事件や事故などありませんでした。無事に学生への船舶実習、研究航海及び海洋底探査航海で活躍できた一番の原動力は、深江丸に関わる多くの方々の尽力があったからだと思います。

 一言では言えませんが、恵まれた運命を持った船であると思います。

――今までやりがいだったと思うことは?

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 本学へ転出した頃は、コロナ禍の初期であり、第一次緊急事態宣言が発出される前でした。よって、深江丸も予定されていた運航計画を凍結し対応を余儀なくされました。そのような中でも、ベストな状態でいつでも船舶実習を再開できるよう、出来る範囲で機関整備などに取り組んでいました。

 何か特別なことをとらえて「やりがい」と言うのでなく、当たり前のように機器が作動できるようメンテナンスし、トラブルが無いようにすることが「やりがい」かもしれません。

――海神丸の建造に関わっておられますが、深江丸との違いは?

 「違いの無いもの」について、海技者を含む海洋人材育成を常に向上させていくことは、深江丸も海神丸も変わらないメインテーマです。技術がどれだけ進歩しても人材育成のプロセスや考え方など土台は変わりません。ただし、マリンエンジニアであれば、エンジニアリングを教授する技術は、進化していかなければならないと思います。

 また、社会貢献もしかりです。一例を挙げると、近年、注目されている言葉に「モーダルシフト」というものがあります。学校授業で、トラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することと説明されても実感が湧くのかなと思います。そこで子どもたちが船って何?となった場合、ぜひ見学してもらって、船のコンセプトやどうやって動いているか?環境対応は?など、知ってもらうことも大学附属練習船が持つ社会的使命と感じます。

 一方で、「違いが存在するもの」は、推進プラント及び船内設備など、深江丸とは違う最新機器となります。昔と違い、社会情勢が変化し、地球温暖化の起因となるGHG排出削減など環境対応の技術は、深江丸より考えられています。

 海神丸は、マリンエンジニアを目指す海技者にとって、環境対応の世界動向や技術を得る良い教材になると思います。

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海神丸完成予定図
――深江丸から海神丸へ、感じることは。

 退役船(終わる船)と言うと悲哀を感じます。しかし、深江丸には、中古売却されるなど第二の船人生を歩んで貰い、大学所有の船から別の場所で活躍する船になることを期待しています。そして、海神丸へは深江丸が持っていた良いDNAを受け継がせたいと考えています。いわゆるバトンタッチです。どのようなDNAかと言いますと、船内の雰囲気です。「笑う門には福来る」という諺のとおり、どんな苦しい事、厳しい事があっても笑顔を忘れず、頑張っていくことこそ、安全運航につながる……非科学的ですが、経験的に小職はそう感じています。

 現在、深江丸乗組員である私たち自身が、このDNAを海神丸へ如何にバトンするか、肝に銘じて精進したいと思います。

 

関連リンク

  • 海洋政策科学部

www.ocean.kobe-u.ac.jp

 

記事を担当した学生

「ありがとう深江丸」イベント開催記念!~船長インタビュー②~

海事科学研究科附属練習船「深江丸」は、学部学生の実習を始め、授業、実験、セミナー、調査・研究、さらには研究会や海事の啓発活動、海事関連企業や団体の研修、近隣の他大学学生への教育提供など、様々な目的や場面でこれまで活躍してきました。そんな深江丸ですが、今年いっぱいで就航以来34年の長い歴史に幕を下ろします。そこで、深江丸のこれまでの功績を称えるために9月24日には「ありがとう深江丸」イベントが開催されます。イベントに先駆けて深江丸の魅力や思い出をゆかりのある方々に伺いました。

★船長インタビュー②

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――深江丸での研究について教えてください。

 船底防汚塗料の実船による評価試験をこの十数年、通年で行っています。船が水の上を航走するとき、造波抵抗や渦抵抗、摩擦抵抗や風圧抵抗などが船体に作用し、これらが船の推進力と釣り合った速力で船は水上を航走します。荒天下の船体動揺時にはこれらの抵抗が大きく変動し速力が激減します。超大型で低速の原油タンカー、石炭や鉄鉱石、小麦や大豆などを運ぶ”ばら積み船”など、でっぷりとして没水面積が大きい船は船体表面と水との摩擦による抵抗が全抵抗の60~70%を占めます。この抵抗を少しでも小さくすることは船の省エネルギー化と同時に温室効果ガスの排出削減につながります。近時、船型やエンジンは極限まで最適化されており、残すところは海洋付着生物の船底付着を阻止しつつ低摩擦性能を発揮できる画期的な船底塗料の開発であり、海運界はその登場を強く待ち望んでいます。太古、人類が水に浮く道具を発明して以来、未だ決定的な解決策がなく、チャレンジする価値のある研究分野であり、これまで民間企業と連携して様々な試行を繰り返しながら取り組んできました。また、航海の都度、PM2.5を含む海洋大気観測も自動で行っています。

――他にはどんな研究が?

 新型コロナウイルスによる活動制限がかかる以前は、夏と春の年2回、7日~10日間の日程で研究専用の航海を計画して学内外から研究を公募し、深江丸を活用した、深江丸でなければできない様々な調査研究活動を支援し展開してきました。

 2006年には関西空港の2期工事完了直前に空港島の全灯火を深夜から早朝にかけて初めて点灯し、大阪湾の海上交通への影響調査を実施しました。また、2012年には明石海峡大橋の2P主塔(本州側)の塗膜の剥離実態を赤外線カメラにより効率よく検出するための実験を本学の工学研究科の依頼で支援しています。通常ではまずあり得ませんが、この実験では許可を得て、潮流の状況を見ながら主塔護岸へ50メートルまで接近を繰り返しました。

 近年では、人工知能を活用した内航船の操船支援システムの開発・検証実験の他、i-Shippingプロジェクトの一環で、船の主機関や推進器から発生する騒音の海生哺乳類への影響調査に続き、船尾船底部に計測機器を船の内外から装着して、推進器周辺の船尾船底部における流場計測を夜間に実施しています。これは世界初の画期的な実験です。

 ユニークな実験として、緊急時に船内から船外に脱出する際、船が正常に浮いている状態と、事故等で大きく傾いているときに、船の構造をよく知らない一般者(被験者は非乗船系の学生50人)が船内から外の暴露甲板へ避難する際に、傾きの度合いによって行動や流線にどのような違いが生じるかという検証実験を、深江丸の船体を右舷側へ最大20度傾斜させて行いました。これは客船の構造設計において重要な指標になり、これも世界初の試みです。このとき、船の異常な傾斜に海上保安庁の巡視艇が確認に来たほどです。

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右舷20度傾斜時の脱出評価実験(2018年1月)

 液体水素の海上搬送とその様態計測も、動揺する船の上で計測するのはこちらも世界初ですが記憶に新しいところです。さらに、鹿児島県薩摩半島の南で屋久島の北側の海底に位置する”鬼界カルデラ”とその周辺海域の探査活動も年2回、10日から15日の日程で実施しています。こちらは、練習船深江丸による海洋底探査活動 -第1時~第6時探査航海の撮要- と題して、大学院海事科学研究科紀要第17号(2020年8月)で報告しています。ときにはなかなかイメージできない実験や調査が打診されることがありますが、実船の現場からの提案も交えて、船と乗船者の安全を考慮し、状況の許す限り可能な範囲で協力し支援してきました。

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液体水素の海上搬送・様態観測実験
――外部との関わりは?

 高校生以上の一般を対象にした複数日にわたる公開講座、ときには半日から宿泊を伴う小中高生向けの体験プログラムの他、近年では文科省主導の教育関係共同利用の一環で近隣大学の授業やゼミ等を対象にした半日から複数日にわたる教育プログラムの場を提供しています。そのほかに海事関連企業や団体の研修なども受け入れています。複数日にわたる航海では、協調性や仲間意識、人への思いやり、譲り合う気持ち、集団の中に溶け込み融和し交流する楽しさ、リーダーシップや責任感、自己完結性の発現など、船内宿泊とともに、制約された環境下の生活を通じて社会道徳心人間性などを醸成できる場を提供し、あえて様々な場面を設定したプログラムの展開を図っています。

――深江丸が多くの依頼を受けてきた理由は?

 様々な打診や依頼があったとき、神戸大学練習船として恥ずかしくない対応と、効果的で、利用する皆様が喜び満足していただける運航の提供をあれこれ思い描きながら判断し実行に移ります。その結果、さすが神戸大学だと思われることが私たち運航スタッフにとっては大きな糧であり、さらなる運航を提供したいという気持ちが芽生えます。搭載する実験機器、居住性や船の持ちうる能力と余裕などを盛り込んだ最大限度の運航を提供できることは深江丸にとりまして大きな喜びであり、自信でもあります。利用者と船側の双方に納得と満足のゆく航海を常に目指しています。

――深江丸から海神丸へ、感じることは。

 現深江丸は、船としての機能維持のための航海を除き、12月末日をもちまして全ての運航を終了し、その後は新船との交代に備えます。この頃には私の船長としての役目も終わることになります。新船の海神丸(かいじんまる)は深江丸の何倍も進化した災害対応型高機能練習船であり、これまでの経験を踏まえて様々な改良・改善が施され、また、最新の装備とともに居住性なども格段に向上しています。海に開かれた神戸大学練習船として、その持ちうる能力を発揮して、さらなる活動と新たな活躍の舞台への進出を大いに期待しています。新メンバーによる安全な航海を祈ります。UW(ユー・ダブリュ:国際信号旗:「貴船のご安航を祈る!」)

 

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